<創造性>をめぐって

8月3日(月)晴れのち曇り

 教師を目指す学生たちの中には、子どもたちの創造性を伸ばすにはどうすればよいのかというようなことを考えるものが少なくないのだが、実際に教師になってみると、現場の現実に流されてそれどころではなくなる例が多いというような発言を目にしたことがある。就職してみると、学生時代に想像していたよりもはるかに忙しい現実があるということは否定できないし、先生方が雑用に忙殺されているというのは、日本の教育の未来のために解決すべき問題の1つであるのだが、それはさておいて、「子どもたちの創造性を伸ばすにはどうすればよいのか」という思考には気になる点がある。

 1つには<創造性>と言っても、芸術的な創造性、科学的な創造性、企業の中での商品開発における創造性、経営手法の創造性などいろいろな形での創造性があって、それらに共通性があるとは思えないことである。芸術的な創造性1つをとってみても、音楽と美術、美術の中でも絵画と彫刻では創造性のあり方が違ってくるのではなかろうか。<創造性>を考えるのであれば、もっと具体的な場面に即して、しっかりした定義をする必要がある。

 もう1つは、学生たちが考えるほど、子どもたちの将来にとって<創造性>が必要なものなのかということを真剣に考える必要があるということである。教育の目的の1つは普通の子どもたちを普通の大人に育てていくことである。この当たり前のことを無視してはいけない。子どもたちに周囲の環境に働きかけて、それを変えていく、新しいものを作り出すことを教えることは教育の重要な仕事の1つであるが、その前に周囲の環境に適応し、それに慣れ親しませるように心がけるべきである。<創造>は、そうした適応の努力で対応できない、その先にある危機的な場面を解決しようとする営為である。だからそれ以前に蓄積された、既存の文化や技術を学ぶ膨大な努力を必要とするはずである。

 だから<創造性>を育てる教育というのは、ちょっと変わった授業を工夫するというようなことではなくて、子どもたちに努力を積み重ねて、その努力が意味のあるものになるようにするにはどうすればよいかということを体得させることである。授業の工夫よりも、子どもたちの日常的な生活態度への働きかけが重要なのである。このような場合に手がかりを与えてくれるのは、役割モデルを設定することである。子どもたちに科学への興味を持たせるためには、科学者や発明家の伝記を読ませるのがよいといわれるが、そういう伝記を読んで、自分なりのあこがれの人間を持つことが創造へのきっかけとなるはずである。(ただし、興味を持たない子どももいるし、興味を持っても子ども自身の素質や環境の問題もあるから、すべての子どもにそれを当てはめようとするのは無理である。)

 子どもの発達段階にもよるのだが、きれいごとだけを書き連ねた伝記よりも、否定面を遠慮せずに書いた本のほうが印象に残るのではなかろうか。最近、梅棹忠夫の『知的生産の技術』が増刷されて書店に並んでいるが、私にとっての役割モデルの1人である梅棹のこの本よりも、梅棹の秘書を務めた藤本ますみが彼の知的作業の内実を描いた『知的生産者たちの現場』のほうが面白い。あるべき姿や願望を書き連ねた本よりも、失敗や否定面を包み隠さずに書いた本のほうが後進にとって役立つことが多い。

 結局のところ、<創造性>というのは努力や失敗と表裏の関係にあって、その表裏の関係は口先だけで教えられるものではなく、もっときめ細かな教師自身の生き方を含めた働きかけを必要とするものである。だから教師自身が毎日の生活について創造的な態度を持つ、魅力的な存在である必要があるだろう。中学時代に2年間担任をしていただいた先生は、日本の伝統文化に深い関心を持ち、俳句や茶道をたしなまれる一方で、生徒たちの学業指導に熱心で、毎週の計画表を作らせて、それがきちんと実践できているかを点検されていた。私は子どものころから、成果さえ出せば、その過程はどうでもいいだろうという人間だったので、あまりおほめにあずかることはなかったのだが、それでも、どのような努力を積み重ねて、どのような目的につなげていくかということを計画することを先生が強調されたのは間違いではなかったと思う。努力は計画的に積み重ねることができるが、成果としての<創造>は計画的に生み出されるものではない。<創造>は突然やってくるし、来ないかもしれない。「人生は運、鈍、根」という言い方がよくあてはまる。
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