ダンテ・アリギエリ『神曲 煉獄篇』(9)

7月21日(火)晴れ、暑し

 第7歌で煉獄の門のありかを探し当てることができないまま日没を迎え、放浪の吟遊詩人ソルデッロの案内で王侯たちの谷で夜を過ごすことにしたウェルギリウスとダンテは、第8歌で前煉獄の魂達を誘惑しようと近づく蛇と、その蛇から魂を守ろうとする天使の姿を見る。2人は日没とともに谷に下りて、そこで地上に正義と平和をもたらすという使命を帯びながら、自分たちの一族への偏愛のために煉獄への入り口の前に置かれている王侯たちの魂に出会う。

 そうこうしているうちにも時間は過ぎて、午後9時ごろになる。他の魂たちと違って、生身の肉体をもっているダンテはここで睡魔に襲われる。そしてその眠りの中で不思議な夢を見る。
私たちの知性は、肉体から
ひときわ高くへ抜け出ると、より現実にとらわれなくなり、
ほとんど預言的に像を描き出すのだが、

夢の中で私は、
黄金の羽毛に覆われた一羽の鷲が中空に浮きながら、
翔を広げ降下の準備をしているのを見ているような気がしていた。
(133-134ページ) その鷲は、ダンテをつかむと地上界と空との境となっている火天まで連れてゆき、そこで鷲もダンテも燃える。
 この時代、明け方に見る夢は、霊的な存在である知性が肉体を抜け出して、宇宙の星々を経由して降りてくる神的な力との接触から生まれるとされ、預言的なものと考えられていた。この夢は、原さんが「各歌解説」の530ページに書いているようにその後の展開との関係で、さまざまな解釈が可能であり、叙事詩の進行の中でも預言的な性格を荷っている。

その場所で鷲と私は燃えているようだった。
そして夢見た火炎は激しく燃え上がり、
眠りは破れてしまわずにはいられなかった。
(134-135ページ)
 夢から覚めたダンテのかたわらには相変わらずウェルギリウスがいて、「・・・
安心するがよい、我らは素晴らしい到達点にいる。
だから心を抑えるな、そしてあらゆる力を奮い立たせるがよい。

おまえは今や煉獄まで到達したのだ。
これをぐるりと取り囲む断崖を見よ。
割られているかのようなこの入り口を見よ。・・・」
(136ページ)と、2人が煉獄の門の近くにいることを告げる。ダンテが眠っているうちに天国から現れた聖女ルチーア(恩寵の光)が彼を取り上げて、ここまで運び、ウェルギリウスがそれに続いたのだという。ソルデッロたちは元の場所に残された。こうして、2人は今度は煉獄の門へとやってくる。

 ここでダンテは、詩の主題とスタイルが変わり、より複雑なものとなることを読者に宣言する。

 煉獄の門は広く開け放しの地獄の門と違って狭い。その煉獄の門の前には3つのそれぞれ色の異なる段があり、一人の衛士が剣を手に門を守っていた。罪に堕ちるのは簡単であるが、罪から抜け出すのは難しいことをこれら2つの門は示しているのである。2人が何ゆえ、この門を通ろうとしているのかについて問われ、ウェルギリウスが説明する。そして2人は階段の上を歩むように言われる。
私達はその前に進んだ。すると最初の一段は
滑らかで鮮明な白い大理石で、
私はその上に自分の姿をあるがままに映すことができた。

二段目は黒紫よりも暗い色をして、
焦げてざらざらした一つの岩でできており、
縦と横に大きくひび割れていた。

三段目は、その上に一塊にのり、
私には斑岩だと思われたが、動脈からほとばしった血のように、
鮮やかな炎の色をしていた。
(141ページ) 一段目の白く滑らかな石は、己の罪を見つめる汚れのない心を表し、罪の自覚を促す告解を意味する。二段目の黒紫の色は心の苦しみを、ざらつきはその痛みを表し、ひび割れは十字架形に入っているとされるが、罪深い頑なな心を砕くことを表し、全体では痛悔を示している。鮮やかな赤い色は神への愛を表し(キリストの殉教をも表すとの説もある)、贖罪を意味すると注記されている。

 煉獄の門の閂を外してくれるように、煉獄の門を守る天使にへりくだって頼むようにとウェルギリウスに助言され、ダンテはその体を投げ出して開門を願う。その天使は手にした剣の切っ先でダンテの額に7つのPを刻み付け、門の中に入ったら、これらの傷を洗い流すようにといいつける。Pはイタリア語のPeccato(罪)の頭文字である。そして聖ぺテロから預かっているという2本の鍵を取り出して、門の鍵穴に入れると、幸いに鍵穴の中で鍵は回り、彼は中に入ることができる。
「入るがよい。だがおまえ達に知らせておく、
振り返って後ろを見た者は、外に戻ることになる」。
(144ページ)と天使は告げる。
こうして軸受けの上で
あの聖なる大門の心棒が回った時、
金属の棒は軋みながら音を立てた。
(144ページ) この扉が開くときの重く軋る音は、贖罪の艱難の主さと厳しさを表すものである。門の中から「テ・デウム」という神に感謝する歌声が聞こえてくる。それは天国を満たす宇宙の調和の前兆のような調べであった。こうしてダンテとウェルギリウスは煉獄に本格的に足を踏み入れる。

 少し乱暴に要約したかもしれないが、今回はどうやら1回で紹介を済ませることができた。これまで以上に象徴や寓意が多くなり、解釈が難しいが、翻訳者の原さんの注解を助けとして、ダンテたちの道のりを一歩一歩追いかけていきたいと思う。
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