プーサン

7月12日(日)晴れ後曇り

 7月9日、神保町シアターで「夏休み特別企画 漫画から生まれた映画たち」特集上映の中の1編である『プーサン』を見た。市川崑が目がフォンをとった1953(昭和28)年の東宝作品。横山泰三(1917-2007)が1950年から1953年まで『毎日新聞』夕刊に連載した同名の4コマ漫画と『サンデー毎日』に連載した『ミスガンコ』から登場人物をとっているが、題名、登場人物名を除くと、原作からはかなり自由に物語が作られているようである(脚本は和田夏十)。第一、主人公の名前が野呂米吉(伊藤雄之助)であって、これがなぜ『プーサン』なのか全く説明されていない。

 原作が新聞・雑誌に連載されていたのは、私が小学校低学年のころであるから、題名と絵柄については記憶はあるが、どんな内容であったか詳しい記憶はない。ただ、両作品とも世相への風刺が込められた、かなりドライな感じの漫画であったようである。横山泰三は『プーサン』の連載が終わった後、1954年から1992年までの長きにわたって『朝日新聞』朝刊に11コマ漫画『社会戯評』を連載した。戦後を代表する風刺漫画といわれる。
 野呂米吉は妻に先立たれて独身の予備校の数学教師。役所で税金の計算をしている公務員の金森風吉(藤原釜足)の家に下宿し、この家の娘で銀行に勤めているカン子(越路吹雪)にひそかに思いを寄せている。学校では経営者≂院長(加東大介)にいいようにこき使われ、板書を代行してくれた学生に手間賃を払ったり、外食券を買わされたりで、一生懸命に働いている割には収入も社会的な尊敬も低い、割に合わない生活を続けている。映画は渋谷に住む彼が珍しく銀座に出かけ、トラックに轢かれそうになって消火栓に躓いてけがをして病院に運び込まれる場面から始まる。警察、病院と彼の世話を焼く男たちの姿から、世相が浮かび上がる。男たちの一人(トニー谷)が紹介してくれた渋谷の病院に通うことになり、そこに雇われている若い医師(木村功)や、親切なのかもの好きなのかわからない可愛い看護婦(八千草薫)と知り合うようになる。一方事故以来さらに臆病の度合いが増した彼は、近所の派出所の警官(小林桂樹)と親しくなる。警官はちっとやそっとのことで驚いていてはだめだと彼を元気づける。そんな彼の日常に、陸軍の軍人からベストセラー作家になってさらに国会議員に選出された男(菅井一郎)や、その甥で野呂の学生である青年(小泉博)が物語に絡む。
 学生に勧められてデモに参加した米吉は、負傷・逮捕されただけでなく、デモに参加している姿が新聞に掲載されたことで予備校を首になる。その性格からガンコとあだ名されるカン子は残業続きのまいにちを過ごしているが、恋人がいるらしい。米吉が頼りにしていた先輩(山形勲)は会社を辞めて行商人になってしまい、米吉はカン子の母の勧めで朝鮮特需で人手が不足している会社の入社試験を受けに出かけることになる。・・・

 さまざまな人物が登場し、それぞれ勝手に動き回る。朝鮮戦争による特需で戦後の復興に勢いがつきはじめた時代の世相を、市川崑はかなり表面的にとらえている。パチンコ店の盛況を天井裏から映し出した場面などはその一例といえよう。外食券食堂で些細なきっかけで始まった喧嘩を描く場面があるが、様式化されたドタバタを演じるわけではなく、平板でおとなしい描写が続くだけである。下宿人が下宿先の娘に思いを寄せるというのは『プーサン』よりも南部正太郎の『屋根裏3ちゃん』的な心情であって、原作も、市川崑の個性ももう少しドライではないかという気がする。だから、米吉よりも、カンコのほうがよく描かれていて、最後の方で彼女の恋愛がうまくいかずに自殺を図る場面で、若い女性が裸で睡眠薬自殺と聞きつけて、大勢の警官が駆けつける場面などは横山泰三の原作の雰囲気をよく伝えているのではないかと思う。実年齢よりも少しばかり若い役を演じている越路の下着姿がなかなか見事である。

 見どころは少なくないが、散漫な印象は否定できない。どうせなら、米吉がさまざまな職場を転々とするという物語にした方が世相を描きやすかったのではないか。社会批判とか、風刺とかいうものは、時代が変わり、世相が変わると、その力を失うことが少なくない。要はどれだけ対象となる社会の問題点を掘り下げることができるかということである。市川が映像にこだわる映画作りをするのは間違いではないが、その映像を通じて同時代の特徴をもう少し自覚的に探っていくべきではなかったのかと思う。そういう映画作りをすれば、また違う印象が生まれただろうと思う。越路吹雪の魅力のほかに、まだ宝塚に在籍していたころの初々しい八千草薫の魅力が印象に残る。

 この作品について調べていて気づいたことを1つ付け加えておく。映画の中で予備校生の役を演じている小泉博さんは、神保町シアターで同じ時期に上映されていた『サザエさんの青春』でマスオさんの役も演じているが、今年の5月31日に亡くなられたそうである。遅ればせではあるが、ご冥福をお祈りしたい。
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