『太平記』(53)

7月11日(土)晴れ

 元弘3年(1333年)3月12日、京の近郊に迫った赤松勢は、桂川を挟んで六波羅勢と対峙したが、円心の子息則祐が桂川を渡って攻撃を仕掛け、軍勢の数では優っているはずの六波羅勢はその勢いに圧倒されて退却、赤松勢が勝利を収めた。下京一帯に火が放たれる中、日野資名・資明の兄弟は主上(光厳帝)と三種の神器を内裏から出して六波羅に入れた。

 同じ3月12日の夜、六波羅の2人の探題は七条大路の東端の鴨川の河原に兵を率いて近づく敵を待ち受けた。もともと赤松勢はそれほどの大軍ではないので、六波羅の大軍を見て嫌気がさしたのか、あちこち走り回って火をつけたり、鬨の声を上げたりはするものの、同じ陣地から動こうとはしない。両探題はこれを見て、敵はきっと小勢に違いない、向かって行って追い散らせと、北探題である北条仲時の家臣である隅田と高橋に3,000余騎の兵をつけて八条口(八条大路の西端)に向かわせた。この隅田と高橋の2人の武士はこれまでも登場し、特に第6巻では楠正成にさんざんに打ち負かされているのだが、仲時は依然として彼らを信頼しているようである。このあたりに六波羅方の判断の甘さがあると言えそうである。さらに伊予の豪族である河野九郎左衛門尉、備中の武士である陶山次郎に2,000余騎をつけて、蓮華王院(三十三間堂)へと向かわせた。

 陶山が河野に向かっていうことには、ただ寄せ集め忠家の軍勢を率いて軍に臨むと、そのことが却って足手まといになって進軍と退却を自在に行うことができないだろう。そこで、六波羅殿からさし添えられた兵士たちを八条河原辺に控えさせて、鬨の声を上げさせ、我々はもともとの配下の兵を率いて、蓮華王院の東から敵の中にかけ入り、四方八方縦横無尽に敵陣を掛け破り、敵を左手、右手において、獣を馬で追って射る追物射のように射てやろうと提案する。河野もこれに同意して、自分の配下ではない兵士たち約2,000騎を鴨川の西側、塩小路東洞院にあった時宗の七条道場、金光寺の前に配置し、河野は自分の手勢300余騎、陶山の手勢150騎はそれとは分かれて蓮華王院の東へと向かった。

 あらかじめ決めておいた時刻になったので、八条河原の軍勢が鬨の声をあげると、赤松勢はこれと対戦しようと馬を西向きに立てて敵襲に備えていると、陶山と河野の400余騎が、思いがけない方角である後ろの方から鬨の声を上げて攻め寄せ、東西南北に駆け巡って、赤松勢を蹴散らした。自分たちよりも大勢の赤松勢の中を縦横に走り回り、陶山と河野が一緒になったり、離れたり自在に攻めまくった。このため赤松勢は多くの死傷者を出して退却を余儀なくされた。

 陶山と河野は逃げていく敵には目もくれず、西の七条辺の合戦の様子はどうだろうか、気がかりであると、七条河原を斜めに西へと横切って、七条大宮に落ち着いて、朱雀の合戦を見やると、隅田、高橋の3,000余騎が赤松勢の2,000余騎に攻めたてられて陣容を整えることさえできずにいた。河野がこの様子を見て、味方が不利なので、自分たちが攻め寄せて加勢しようというと、陶山がそれをとめて、まだ戦況がはっきりしないうちにわれわれが加勢すると、隅田と高橋は心がけが悪い奴らであるから買ったのを自分たちの手柄だといい裁てるだろう。敵が勝利を収めても、大したことはないだろうから、しばらく様子を見ようという。それで両者は戦いの様子をしばらく眺めていた。

 そうこうしているうちに隅田、高橋は赤松の軍勢に追い立てられて、軍勢を立て直すことができず、北へ逃げるもの、東に逃げるもの、逃げたくても馬を奪われて逃げられずに戦死するものなど、散々の体たらくであった。陶山はこれを見て、余りにのんびりして、味方が弱るのを見ているのも意味がない、この様子では兵を進めた方がよかろうといい、河野も同意して、両勢が一緒になって敵の大勢の中に攻め寄せ、百戦錬磨の勇士たちが臨機応変に戦ったので、赤松勢はここでも敗北を喫し、寺戸(向日市寺戸町)へと引き返した。

 『太平記』に記された軍勢の数がどこまで正確かはわからないが、この時点でも六波羅=幕府は宮方の赤松勢よりも大勢の兵力をもっていたようである。しかし、赤松勢のほうが士気が高く、統率もとれているのでここまでは優勢に戦ってきた。しかし、さすがに六波羅の近くまで攻め寄せると、その勢いにも衰えが見える。六波羅方から河野、陶山という歴戦のつわものが登場すると、自分たちよりも兵力の少ない彼らの軍勢に打ち負かされることになる。とはいうものの、隅田、高橋のように全くいいところがないのに、六波羅探題の信認を得ている武士もいる。数は多くても一枚岩とはいいかねる六波羅方が果たしてどこまで宮方の攻撃を撃退しつづけるだろうか。 
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