ダンテ・アリギエリ『神曲 煉獄篇』(7-2)

6月29日(月)晴れ

 1300年4月10日、復活祭の日にダンテはウェルギリウスに導かれて、地球の南半球にある(とダンテが想定した)煉獄山の麓へとたどり着く。煉獄の入り口を探してさまよううちに、マントヴァ出身で、ダンテよりも少し前の時代に活躍した詩人であるソルデッロの魂に出会う。ソルデッロは自分と同郷の大詩人ウェルギリウスに出会うことができたことを喜び、彼を称え、2人が負うている任務を知ると、夜の闇のなかを旅行するのは危険だといって、隠れた谷で一夜を過ごすことを勧める。

険しい山肌と平野との狭間に斜めの小径が続き、
私達を陥没の脇、
縁が穴の深さの半ば以上に削れている場所へと導いた。

黄金に純銀、真紅に白、
藍、リーニスの輝く透明な色、
砕ける瞬間の鮮やかなエメラルド、

そのどれもが、その谷の懐深くに配された
草木や花々の色には凌駕されるであろう、
小が大に負けるのと同じく、

自然はそこにただ絵を描いただけではなかった。
幾千もの香りがかもし出す心地よさが
渾然一体となった、ある未知の香りをも作り出していた。
(110-111ページ) ソルデッロもその一員であったプロヴァンスの宮廷詩人たちは彼らの詩のなかで貴金属や貴石などを使って宮廷の美しさ、荘厳さを描きだそうとした。しかし、そのような虚栄の美は自然の美には劣ることをこの章句でダンテは示している。王侯たちは自分たちの暮らした宮殿よりも美しいこの谷で、彼らが生前に享受した虚栄が、神の前では無力であることを改めて痛感させられているのである。

 谷からは、歌声が聞こえた。
「祝福あれ、空の王妃よ」、緑と花々の上に座って
歌っている魂達がそこからは見えた。
彼らは谷に隠され外に姿を見せていなかったのだ。
(112ページ) 11世紀に、教皇グレゴリウスⅨ世が金曜晩の礼拝で歌うように定めた交唱歌『サルウェ・レジーナ』が魂達によって歌われている。聖母マリアにキリストの救いを求める祈りの歌であり、前煉獄の魂が歌うのにふさわしい。

 ソルデッロは、日没前に彼らのもとへ降りてゆかずに、高台から彼らを眺めるほうが、それぞれの姿がよく分かるという。
ドイツ王国の拡張と経営に専心してイタリアを放置したハプスブルク家のルドルフ(1218-91)、
ルドルフと敵対し、そのイタリアなんかへの障害となったが、勇猛と善政で知られたボヘミア王オットカール(1233-78)、彼はルドルフ帝との戦闘で戦死したが、ここでは自分の使命を果たすことができなかったことを悔いているルドルフを力づけている。
「フランスの悪」(114ページ)とダンテにののしられているフィリップ美王の父フランス王フィリップⅢ世(1245-85)は隣国であるナヴァ-ラ王アンリⅠ世(1238-74)と親しげに話しているが、イタリア南部のシチリアをアラゴン(スペインの一部)王との戦いに敗れて奪われた屈辱を忘れかねている。(なお、現在のスペインとフランスの国境付近にあったナヴァ-ラ王国は、個々の国王であるアンリ・ド・ブルボンがフランス国王アンリⅣ世となった際にフランスに併合された。この国の住民の多くはバスク人であり、独立を取り戻そうとその後長く戦うことになる。日本にキリスト教を初めて布教することになるフランシスコ・ザビエルは代々このナヴァ-ラ王国の宰相を務める家柄の出身であり、このあたりのことを書いていくと、話が長くなるので、興味のある方はご自分で調べてください。) 第7歌では当時のヨーロッパのさまざまな王侯たちの姿を、彼らの生前の業績に即して描いていく。そして、彼の観察を踏まえて、次のように言う。

人間の美質が、枝分かれした子孫のなかに
蘇ることはまれです。美質をお与えになる方が、
それは自らに由来すると人々に言わせるため、こうお望みだからなのです。
(115ページ) 優れた王の美質がその子孫に受け継がれるとは限らず、逆に凡庸な王から名君が生まれる場合もある。すべては神の計らいによるのだとダンテは考えている。

 第7歌の中でダンテは当時のヨーロッパの王侯たちが自分たちの使命を十分に果たさなかったために、煉獄でその罪の償いを果たしている姿を描きながら、国の枠を超えて正義と平和を実現する君主の出現を待望しているが、これはその後のヨーロッパで近代国家が形成されてゆく過程とは全く違う見通しであった。ただし、国際連合や欧州統合などの動きは、ダンテの考えと無関係ではないともいえるだろう。
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