松岡享子『子どもと本』

5月21日(木)晴れ

 松岡享子『子どもと本』(岩波新書)を読む。東京子ども図書館の理事長として活躍する一方で、児童文学の翻訳・創作・研究の分野でも業績を上げている著者による、子どもの読書をめぐる論考。こどもへの愛情と信頼とがあふれた書物である一方で、この書物の中で取り上げられている読書が文学に偏りすぎているのではないかという疑問も感じた。

 石井桃子さんの『新編 子どもの図書館』について十分に論じないうちに、その続編を自認して書かれたこの書物を読み、取り上げるのはちょっと性急ではないかとも思うが、私が日頃考えていることと重なる部分が少なくない本なので、こちらをまず論評しておくことにした。

 この書物は5章からなり、「子どもと本とわたし」と題された1章は著者の読書遍歴と、子ども図書館を運営するに至るまでの過程を自伝的に綴っている。2章は「子どもと本との出会いを助ける」と題されていて、著者がこれまでの活動を通じてどうすれば子どもを本好きにできるかについて、記されている。3章は「昔話のもっている魔法の力」と題され、子どもたちがなぜ昔話を好むかを心理学的な知見を交えて考察している。4章は「本を選ぶことの大切さとむつかしさ」と題され、図書館の蔵書選びのなかでの図書館員の役割について論じられている。5章は「子どもの読書を育てるために」と題され、民間の有志の努力には限界があるので、社会が共同して、読書を育てるための仕組みを作り、支えていくことが必要と論じている。

 特に興味深かったのは3章で、図書館員の仕事として子どもたちにお話を語る際に、昔話が子どもたちを強く引き付けるという経験が、意外でもあり嬉しく感じられることであった。昔話をめぐっては民俗学、心理学、文学の3つの領域から研究がなされているが、それらの知見から多くのことを学んだという(どちらかというと心理学と文学に重点があるようである)。昔話は語り物として長い間練り上げられてきたものであり、「くりかえし」や「先取り」などの技法が用いられて子どもたちの興味をそらさないだけでなく、シンボリックな形で展開される物語が子どもたちの成長の過程における不安を解決するような性格をもっているという。ここで名前が挙げられているリュティとか、プロップとかの文学者たちの本は私も読んでいるのだが、また新しい興味をもって読み返してみるのも意義があるかもしれないと思っている。

 「読む」ことが中心になって論じられている書物であるが、「物語を生きる子ども」(76ページ)とか「字が書けないことは力」83ページ)という洞察も見られ、実は「読む」ことが孤立した行為ではなくて、「話す」ことや、その他の子どもの生活と密接にかかわりあっているということが著者の一番言いたいことではないかと思う。だから、そのための条件整備を進める社会全体の取り組みが必要だと締めくくられているのであろう。

 最初にも触れたが、著者が考えている読書が文学作品を読むことに偏っており、(石井さんの『子どもの図書館』だと図鑑類なども視野に入れられている)、アメリカの図書館における「評価用カード」(174-5ページ)の話は興味深かったが、子どもたち自身が読んだ本をどのように記録するかについても関心を広げる必要があるのではないか。さらにデジタル化が進む中で、子ども図書館と読書活動がどのようにその活動を展開していくかについて「あとがき」で多少の不安が述べられているだけであるのが気になるところではある。

 そうはいっても、子どもたちの読書経験に長年付き合ってきた著者が蓄えてきた知見には学ぶべき多くのものがあり、直接子どもや読書とはかかわらないところで生活している人間にとっても有益な内容が含まれている書物である。
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