コリン・ホルト・ソーヤー『旅のお供に殺人を』

5月7日(木)曇り後晴れ

 5月5日、コリン・ホルト・ソーヤー『旅のお供に殺人を』(創元推理文庫)を読み終える。カリフォルニア州南部のカムデンという町にある高級老人ホーム<海の上のカムデン>の住人であるアンジェラ・ベンボウとキャレドニア・ウィンゲイトの老婆2人組が活躍するシリーズ第8作。昨日の「日記抄」でこれまで読んだこのシリーズの作品の中で一番面白いと書いたが、これは一般的な評価らしく、たまたま”Goodreads"というサイトを見たところ、このシリーズを読んだ読者たちの評価で最高得点を得ていた。

 <海の上のカムデン>で行われている娯楽活動がマンネリ化してどうもつまらないという気分が広がってきた中で、入居者の協議会が開かれてさまざまな提案がなされ、アンジェラの発案でスペイン語講座が開かれることになる。ホームの近くの大都市サンディエゴにはスペイン語しか通じない店がたくさんあり、このホームで働いている庭師やメイドたちの中にも日常スペイン語を使っている人が少なくない。そんなこんなでスペイン語講座が始められたのだが、発案者であるアンジェラがいちばんできの悪い₌覚えの遅い生徒であることが、本人にとってはどうも不愉快であった。キャレドニアによると、実際にスペイン語が話されている場所まで出かけて、言葉に慣れることが一番大切なのではないかという。ホームからもののの1時間も車を走らせれば(もちろん高速道路を使ってだが)メキシコに到達する。ということでメキシコ旅行が企画される。しみったれの支配人トゥーガソンが金は出さない代わりに旅行業者との交渉にあたり、マラリン・ウィルソンという地元の旅行業者が旅を担当することになる。老人ばかりの旅行なので、長期のディープな場所を訪ねる旅は無理だということから、10月31日にティファナで2泊、11月11日にエンセナダその10日後にティファナ、合計3回の旅行で8日間という旅行が決められる。20人の参加を予定、最初18人が申し込んだのだが、さまざまな理由から取りやめる入居者が出て、11人で旅行に出かけることになる。

 参加するのはアンジェラとキャレドニアに加えて、心優しい紳士のトム・ブライトン翁、飲んだくれのグローガン翁、新入りではあるがその積極性と協調性からみんなの人気者になり始めているロジャー・マークス翁、そしてこれも新入りだが謎めいた行動が多いジェリー・グリュンケ翁の4人の男性陣、入居者協議会の議長でアンジェラとはそりが合わないトリニタ・ステインズベリ、なにか新しいことがあると混乱するたちの古株の入居者トッツィ・アームストロング、ちょっと見たところでは見分けがつかないドラ・リー・ジャクソンとドナ・ディー・ジャクソンの双子、新入りだが、容赦のないきつい物言いと態度で全く友達のできないエルミラ・ブレインツリーの女性陣であり、それに添乗員として年齢不詳の金髪美人である旅行業者のミセス・ウィルソンが加わり、アンジェラのいうところではタイロン・パワー(古いね)に似たハンサムな青年トニー・ハンロンが運転手として同行する。

 ティファナで泊まるホテルは古く、設備もそれほど良くはないが、料理は一流で、一行はすっかり満足する。ホテルの外では「エル・カルネバル・パラ・トドス・ロス・サントス=オール・セインツ・カーニバル(諸聖人の祝祭)」の縁日が出ている。(厳密に言うと、「諸聖人の祝祭」は11月1日で、10月31日(ハロウィーン)はその前夜である。日本でもハロウィーンの商戦はかなり前から始まっているからね、1日や2日早くお祭りが始まっても文句を言う筋合いはない。) アンジェラとキャレドニア、トム・ブライトン翁とグリュンケ翁、グローガン翁、トリニタ、ブレインツリーが参加、それにミセス・ウィルソンがついてくる。縁日を楽しむ一行であったが、この散策に参加しなかったロジャー・マークスがどうもミセス・ウィルソンにご執心らしいとキャレドニアは観察し、ホームの庭師頭であるファン・サエンスの姿を見かけたとアンジェラは言い張る。縁日の出し物を冷かして歩いた後で、一行は馬車に乗って諸聖人の日のエクストラヴァガンザを見物する。ところが、見世物を見物して馬車から下りたところ、ブレインツリーが死んでいたことが分かる。

 一行は地元警察のロペス警部からかなり厳しい尋問を受けたが、エルミラ・ブレインツリーの死は心臓発作によるものとされたが、アメリカに戻ったアンジェラとキャレドニアは、おなじみのマーティネス警部補の訪問を受け、ブレインツリーの死には不審な点があったとの報告を受ける。それでも、一行は、11月11日になるとエンセナダに向かう。今回泊まるホテルは海の近くにあり、設備は豪華だし、サーヴィスも行き届いている。ところが、翌日になって観光を楽しみ、夕食を済ませたアンジェラが、その夜、買い物に出たところ、またもやファン・サエンスの姿を見かけた。そしてその夜、遅く、一行は起こされる。一行の中でまたも死者が出たらしい・・・・

 この作品がシリーズの他の作品に比べて引けを取らないどころか、それ以上に面白いのは、観光や食事の場面での行動や態度を通じての老人たちの性格の描きわけが見事であること、とくに行動的なアンジェラと慎重なキャレドニアが、アメリカとは生活リズムの違うメキシコにやって来て、それぞれ別の対応をとりながら、自分らしさを発揮しているところであり、一行の荷物をめぐる騒ぎや、運転手の態度など、性格の描きわけだけでなく、それとなく伏線が張られてその後の事件が予示されているところである。その一方で、事件とは関係のない出来事も忍び込ませてあるので、注意が必要である。また登場人物の行動の一方で、警察が着実に捜査を展開していることも視野に入れておいた方がよい。それに作者や作者に多くのヒントを与えたというその妹のメキシコ旅行の経験が大いに生かされていて、これらの場面が実に生き生きと描かれているのが楽しい。さらに北米自由貿易協定(NAFTA)のような時事問題とか、アメリカ先住民の問題などもさりげなく盛り込まれていて、作者が社会の変動にも十分に関心を払っていることを感じさせる点も加点材料となる。メキシコとアメリカの警察の協力ぶりがしっかり描きこまれているのも面白い。観光旅行中に起きた事件を描く小説は少なくないが、地元の警察をどのように扱うかも注目してよい点であろう。

 原題はMurder Ole! 「殺人、オレー」というので、ちょっと不謹慎だが、どこか陽気なこの作品の気分をよく表している。何せ、探偵役が老人であるから、ある時は鋭い観察眼を見せたり、元気な行動力を発揮したりするかと思うと、とんでもない間違いをしたり、混乱した行動をとったりもする。そのあたりにこの作品の独特のユーモアの源があるだけでなく、推理小説としての特色も認められてよい。事件についてあまり詳しく書くと、作品を読んでやろうという気分をそぐから詳しいことは書かないが、推理の過程よりも、登場人物の性格の発露の方に作品の価値を認めるべきではないかと思う。

 なお、翻訳者はこの作品でシリーズは中断していると書いているが、調べてみたところ、この作品発表の2年後の1999年にBed, Breakfast, and Bodiesというシリーズ第9作が発表されているはずである。なぜかその点が言及されていないのが、新たなミステリーとして興味を掻き立てられる。
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