東海林さだお『アンパンの丸かじり』

4月18日(土)晴れたり曇ったり

 東海林さだお『アンパンの丸かじり』(文春文庫)を読み終える。『週刊朝日』に連載中のエッセー「あれも食いたい これも食いたい」の2011年2月4日号から10月21日号までの掲載分をまとめたもので、シリーズ第34弾だそうである。

 東海林さんは1937年生まれなので、もう80歳近くになるが、その好奇心、探求心、観察眼、実験精神など、このエッセーを支えている精神は一向に衰えを見せていない。たとえば、「生親子丼」を出す店が渋谷にあるという情報を、テレビで見て知ったという友人の話を聞くと、その店に出かけるのではなく、自分で作ってみる。「知人は番組全体をしっかり見たわけではないので、ところどころ想像の部分もあるが」(24ページ)、とにかく作って食べてみると「もう本当に想像した以上においしい」(26ページ)。さらに、この料理がどのような親子の姿を映し出すものかを想像して見せる。多様な芸が展開されているのである。この自分で作るという試みが壮大な展開を見せるのが巻末の「トッピング、めちゃ乗せカレー」で、どんなカレーが出来上がるのかは読んでのお楽しみ。

 その一方で、長い人生の中での記憶が、郷愁をこめて語られることもある。「さらばハムサラダ」を読むと、確かに昔は洋食屋メニューにあったハムサラダが、いつの間にか姿を消してしまったことに気付かされる。「5,6年ほど前まで、東京駅の丸の内側の構内の有楽町寄りの隅のところに、いかにも昔風のレストランがあって、そこのメニューにはハムサラダがあった。/そこで食べたハムサラダが、ぼくの最後のハムサラダとなった」(39ページ)という観察と記憶は、貴重な記録となるかもしれない。

 他方、年齢に負けない探求心を見せ付けているエッセーもある。「JR渋谷駅の山手線外回りのホームに立ち食いの『どん兵衛』という店がある」(89-90ページ)という、カップ麺を食べさせている店は、私も何度か前を通っているが、入ったことはない。そこを東海林さんは中に入ってカップ麺を食べ、「新しい発見あり。/カップ麺は普通ポットのお湯で作るが、この店のように煮えたぎっている熱湯で作ってフーフー吹きながら食べると3割増ぐらいおいしい」((93ページ)との結論を得る。

 2011年3月11日の大地震のあとでコンビニを訪問したときの「駆け込み買い物」を書き記したものは愉快ならざるものであるが、災害の後の消費者の心理をきちんと分析していて、記憶にとどめるべきものとなっている。

 そうかと思うと「醤油だれか、ゴマだれか」をめぐってなかなか決断ができない心理を記したエッセーは、東海林さんの漫画によく出て来るパターンだなと思って読んでいた。繰り返しになるが、多彩な芸が展開され、多様な読み方ができる本であり――軽く読み流せばよいのだけれども、たぶん、どこか心に残る部分があるはずの書物である。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR