ダンテ・アリギエリ『神曲 地獄篇』(31)

4月7日(火)雨が降ったりやんだり

 第30歌の終わり近く、贋金つくりのアダーモ博士とトロイア城内に木馬を運び込ませることに成功したシノンという歴史に残る(とダンテが考えた)嘘偽りの大家2人が展開する舌戦にダンテは思わず聞き入り、そのことで異界への旅の案内者であるウェルギリウスの叱責を受ける。

同じ声がはじめに私を噛むように叱責し、
そのために私の両頬は朱色に染まったが、
その後では良薬を私に与えた。
(454ページ)と、ウェルギリウスの叱責が彼に与えた効果について述べるところから第31歌は始まる。彼はこの叱責をトロイア戦争の英雄アキレウスにその父親が与えた槍にたとえている。それは「はじめは苦しみを、次には素晴らしい贈り物を/もたらしたという」(同上)のである。

 そして2人はさらに道を急ぐ。
私達は悲惨の谷に背を向け
さらにその内側を取り巻いている断崖の上を、
話すこともなく横切るように進んでいった。

その場所は夜には足らず、さりとて昼にも足らず、
そのため私の視線は前方にほとんど届きはしなかった。
だが、私には角笛が高く鳴り響くのを聞いた。

あらゆる雷鳴をかすれた音にしてしまうほどの凄まじさで、
その音は、私の目にそれが通って来た道を逆にたどらせ、
ある一つの場所に引きつけた。
(454-455ページ) ダンテはその角笛の音を、中世の有名な叙事詩『ローランの歌』の中の敵襲を受けたローランが、自分の率いる軍隊が壊滅状態になって初めて吹いた角笛の音になぞらえている。ローランが敵襲を受けたのは、自軍の中に内通者がいたためで、ローランの角笛が想起されているのは、地獄のこのあたりで裏切りの罪が罰せられていることが暗示されているという。

 角笛の音が示す方向に目を向けると、幾多の高い塔が見えるようにダンテには思えた。彼はウェルギリウスに、自分の前に待ち構えているのはどのような都市であるのかと問う。しかし、ウェルギリウスは塔のように見えているのが巨人たちであると、前途に待ち受ける奇怪な風景について、ダンテが驚かないようにあらかじめ教える。

あたかも霧が晴れわたるとき、
空気を濁らせていた水蒸気が隠していたものの形を
視線が徐々にはっきりと明らかにしていくように

重く暗い大気の中に視線を突き通しながら、
さらにさらに断崖に向かって近づいていくと、
私の心のうちから思い違いが逃げていき、かわりに恐怖が育ってきた。
(457ページ) 彼の目の前に、塔のように巨大な恐怖の巨人たちの姿が見える。彼らはその巨大さと力を頼んで、神に反抗したために地獄のこの場所におかれているのである。

 ウェルギリウスは巨人たちの中で縛られてもいないし、話をすることもできるアンタイオスのところに進み、自分たち2人を地獄の最下層の「あらゆる罪の底辺」(463ページ)に下すように頼む。ウェルギリウスとともにダンテは巨人の手に掴まれて、「ルシフェルとユダを/貪っているあの深淵に私達を置いた」(467ページ)。

 旧約聖書に登場する巨人たちとギリシャ神話に登場する巨人たちが地獄で並んでいる。彼らの姿が霧で、なかなか見えないところなど、イタリアの風土が地獄の描写に影響しているのかもしれない。 いよいよたどりついた地獄の最底辺でダンテは何を見、教えられるのであろうか。
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