黒田龍之助『寄り道ふらふら外国語』(4)

3月27日(金)晴れ

 ロシア語の先生であり、スラヴ語派の言語の専門家である黒田さんの寄り道外国語の4番目の、そして最後の言語はスペイン語である。もっとも、黒田さんはスペイン語を勉強したことはまったくないらしい。

 黒田さんが通ったのは四谷にある大学で、ここの外国語学部にはイスパニア語学科というのがあり(なぜスペイン語ではなくて、イスパニア語というかについては大学のホームページに説明されている。その説明の一部が134ページに引用されているので、関心のある方はご覧ください)、黒田さんが学んだロシア語とともに授業が厳しいことで知られていて、「鬼のイスパ、地獄のロシア」といわれていたという。厳しい授業のおかげで『イスパニア語学科の学生は優秀で、語彙や文法をすいすいと身につけ、その語学力を活かして就職していくとの評判だった。/それに引き換えわがロシア語学科ときたら、厳しいわりにちっともうまくならない気がした。学生はぼやきながら、ため息をついていた。/ああ、鬼に習うと上達するけど、地獄にいても苦しむばかりだな。(136-137ページ)
 スペイン語の学生の方が上達度が早い(あるいはそういうふうに見えるだけだったのかもしれない)のは、大学の授業以外で、スペイン語に接する機会が多かったことによるのではないか。この大学はカトリック系の大学なので、スペイン語を母語とする関係者は多かっただろうと思われるし、マナンティアル書店のようなスペイン語書籍を取り扱う書店が近くにあることも好条件であったと思う。最近ではロシア人のお姉さんが多く在籍する風俗店も少なくないようだが、学生はそういう店に行かない方がいいと思うし、やはりロシア語を勉強するほうが困難は大きいようである。

 『屋根裏部屋のマリアたち』と言うフランス映画は、自分の家で働くスペイン人の家政婦が、仕事ではフランス語を話すが、仲間内ではスペイン語を話していることから、スペイン語に興味をもちだす実業家を描くもので、黒田さんはこの映画を見て、ある外国語を学ぶとともに、その他の外国語も学習することが大事ではないかと(どこか議論が飛躍しているようにも思うのだが)呼びかけている。「フランス語を勧めるスペイン語の先生や、スペイン語を勧めるフランス語の先生がたくさんいたら、外国語の世界はもっとにぎやかになるのではないか」(140ページ)。学生時代、中国語の尾崎雄二郎先生の研究室にいるところを、ロシア語の山口巌先生に見つけられ、後で、たんめん君は中国語も勉強しているのですか、いいことですねえとほめられたことについては以前に書いたことがある。実は未だに中国語もロシア語も満足にはできないのだが、山口先生の温かい言葉はずっと記憶に残っている。先生はまだ御健在であろうか。

 スペイン語の発音は簡単だという人がいるが、実際に勉強してみるとそうでもないという話。スペイン語を話す地域はどこかという簡単そうに見えて、実は難しい質問。「小さなことにも目を配りながら、自分の世界を広げていく。外国語学習は単語や文法の知識だけではないはずだ」(158ページ)。
 スペイン語とスペイン語の学習について語りながら、話はしばしば脱線する。しかしその脱線の中で、重要なことが主張されている。「「やさしい言語」とか「難しい言語」というけれど、そんな違いが本当にあるのか。調べるには自分で勉強してみるのがいちばんいい。体験もしないで、勝手なことをいってはいけないのである。/気軽に「世界一」という表現を使う人がいるが、どうもなじめない。世界についてきちんと勉強していないのに、ノリで不正確なことを吹聴するのがイヤなのだ。世界はそんなに簡単に語れるもんじゃない。主要な外国語が読めるだけで、世界を制覇したような気分になっているのは、明らかにおかしい」(169ページ)。

 勉強に行き詰まったらどうするか、旅行の際の会話で何が必要か、文法は怠け者にこそお勧めである、言葉は多義的である(道具には様々な使い方がある)ことなど、経験をもとに機知にとんだ議論が展開される。話がだんだんスペイン語からそれていくが、それはそれでいいのである。スペイン語について本格的に語るとなると、イベリア半島で話されている多の言語についての知識、ラテン語についての知識、中南米についての知識、その他さまざまな知識が必要になってくる。そういう議論はまた別の著者に期待するほうがいいだろうと思う。

 フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語というヨーロッパ大陸の主要4言語についての黒田さんの寄り道経験を語るこの書物、それぞれの言語を勉強するきっかけになるかもしれないし、手掛かりになるかもしれないし、そうでなくてただの知識を得るだけかもしれないが、何らかの意味で役に立つように読むことが望まれる。楽しく読める唐といって、それだけで終わらせるべきではなさそうである。

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Re: 山口巌先生の経歴について

訂正のコメントをありがとうございました。ご指摘のように訂正しておきます。ご教示いただいた本は探してみたいと思います。小生の語学記事を詳しく読まれたようで、ありがたく思っております。他にも記憶違いがあるかもしれないので、ご指摘いただければ幸いです。

> 山口巌先生の経歴が違っています。
> 大阪外国語大学を卒業されたのは植野修司先生、山口巌先生は京都大学文学部言語学科の卒業です。
> 機会があればご訂正ください。
> 懐かしいお話でつい読みふけってしましいました。最近はチェコのフラティシェク・クプカの『カールシュタイン城夜話』『スキタイの騎士』を翻訳出版されています。『カールシュタイン城夜話』のあとがきに小野理子先生のことが書かれています。
>  
> cf. 山口 巖 - 研究者 - researchmap
> http://researchmap.jp/read0012554/
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