ダンテ・アリギエリ『神曲 地獄篇』(29)

3月23日(月)晴れ後曇り、夕方になって小雨が降りだす

 第28歌ではダンテとウェルギリウスが地獄の第8圏第9巣窟で出会った分裂先導者たちが、その罪のゆえに身体を切り裂かれる罰を受けている姿を描いていた。第29歌は、その異様な姿に茫然とするダンテの様子を描くことから始まる。

無数の人々の異様な傷の数々に心を奪われて
私は目をあまりに赤く泣きはらし、
ただただ涙を流し続けていた。
(424ページ) しかしウェルギリウスは
すでに月は我らの足の下に沈んでいる。
我らに許された時はもはやわずかなのだ。
それなのにまだ見ておらぬ、みるべきものはさらにある。
(424-425ページ)と先を急ごうとする。

 ダンテが立ち止まろうとしたのは、ここで罰を受けている罪人たちの中に自分の親族がいるのではないかと思ったからであるが、ウェルギリウスはダンテの探す人物が自分がそれによって死に至った暴力的な事件への報復を促そうとすることを察して、会わせなかったのだと説明する。ここでダンテは、当時の都市で有力な一族が暴力的な抗争を繰り返していたことを批判しているのである。

 そして2人は第8圏の最後の巣窟である第10巣窟に差し掛かる。
無数の異様な嘆きが私を射抜いた。
その矢は哀れみの矢尻を尖らせていたため、
私は両手で両耳を塞いだ。
(428ページ) 罪人たちは暗黒の中で病苦に苦しみ、彼らの体からは悪臭が漂っていた。
とぼとぼと言葉もなく私達は進んでいった。
耳をそばだてて病人たちを見つめ続けた。
その者どもは己の体を起こすことさえできずにいた。
(430ページ)

 ここで罰を受けているのは偽造者であり、第29歌で主に描かれているのは錬金術師=黄金の偽造者たちである。翻訳者の原さんは次のように解説している。「商業を基盤とする社会には、交換の道具となる金銭の原料である貴金属の信頼性が必要不可欠である。それゆえダンテは、社会生活の基盤を揺るがす偽造に厳しい態度をとり、彼らを病に倒れ、身動きできない姿で描く。錬金術師は黄金がハンセン病にかかり鉛に変じるという当時の思想に従い、ハンセン病患者の姿で描かれている」(601-602ページ)。伝染病に対する偏見は彼の時代の思想の反映であるとはいえ、ダンテの思想の限界が感じられるが、その一方で健全な市場経済の発展を望んでいることにも注目すべきであろう。

 ダンテは2人のイタリア人の錬金術師を見出し、それぞれの生前の悪行についての話を聞く。当時、政治家になるためには何らかの職業組合(ギルド)に入る必要があり、ダンテは医者・薬剤師組合に入ったという説がある。そのために彼は化学を学んだといわれるが、その際の仲間であったカポッキオは1293年にシエナで「化学(錬金術)」を行った罪で火刑に処せられた。2人のイタリア人のうちの1人は次のように言う。
そうすれば私がカポッキオの影であると分かるはずだ。
化学で金属を偽造したものである。
そしておまえは思い出すことになる。私がおまえの正体を見抜いているならば、

私がどれほど素晴らしく自然をまねる猿だったかを。
(436-437ページ) たしかに、カポッキオはダンテと面識があるような話し方をしているが、かれとダンテとの関係については十分にはわからない部分もあるようである。
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