金澤正剛『中世音楽の精神史』

3月14日(土)曇り

 金澤正剛『中世音楽の精神史 グレゴリオ聖歌からルネサンス音楽へ』(河出文庫)を読み終える。

 ヨーロッパ中世には大きく分けて4つの種類の音楽があったという。
 第1は一般民衆が楽しんで聴いた音楽で、おそらくは同時代の音楽の大部分を占めていたはずであるが、楽譜に書き記されることもなく消滅してしまった。
 第2はグレゴリオ聖歌に代表される、キリスト教の礼拝で歌われる単声聖歌である。聖書の言葉や聖句を旋律にのせて歌うもので、その他の音楽が発展していく際にその基礎となった。
 第3は貴族、騎士たちが創作した歌曲がある。通常、世俗的な内容の詩に音楽をつけたものであるが、宗教的な内容をもつものもある。騎士たちは単に武勲をあげるだけでなく、詩をよみ、それに節をつけて披露することで知的な教養を示すことが求められた。特に11世紀末から13世紀にかけてフランスや見ないドイツで活躍した十字軍の騎士たちの中から歌人たちが現われることになる。彼らはその言語によって、オク語(南フランス語)を使うトルバドゥール、オイル語(フランス語)を使うトルヴェール、中世ドイツ語のミンネジンガーなどの呼び名を得ていた。
 最後に9世紀中ごろまでには歌われていたものと推測されている多声音楽であるポリフォニーがある。もともとはグレゴリオ聖歌に対旋律をつけて歌うオルガヌムから始まったものであり、最初はその場限りの即興的な歌唱であった。「ところが12世紀に入るあたりから、突然多くのオルガヌムが楽譜に書き残されるようになる。それはひとつには、同時に演奏される旋律のやり取りが次第に複雑化して、即興演奏の領域を越えるようになったためだったのかもしれない。しかしまた一方では、そのような複雑な作品を知的な想像力の産物として記録に残しておきたいという意識が生じたためではないだろうか」(14ページ)と著者は論じている。そしてさらに「中世のポリフォニーが、どのような考え方に基づいて作曲され、演奏されたのであろうか。そのような音楽を生み出した当時の知識人の心とは、一体どのようなものであったのであろうか」(20ページ)という問いを投げかけている。「精神史」というのはこのような意味で言われているのであり、知的で、中世のヨーロッパで発展した大学とも結びついた精神活動として音楽の歴史を探求しているのがこの書物の特色である。

 実際にこの書物の第1章は「中世の音楽教育」と題され、音楽と教会の活動の結びつき、また大学における主要な教科の1つとしての音楽の存在について論じている。第2章では、そのような音楽と音楽教育における理論的な支柱を提供したボエティウス(480頃‐524)とその『音楽教程』について述べている。第3章「オルガヌムの歴史」では、グレゴリオ聖歌からポリフォニーへの発展の経緯を辿り、さらに第4章では「ノートルダム楽派のポリフォニー」について触れている。第5章「アルス・アンティカの歴史的な位置」では、13世紀フランスでのポリフォニーの歴史を考察し、第6章「アルス・ノヴァとトレチェント」では14世紀のフランスとイタリアにおける音楽の動きについて述べている。特に第4章以下では音楽を楽譜に書き残す記譜法の変遷が詳しく述べられているので、興味のある人には面白いだろうと思う。

 正直なところ、実際の音楽を聞かずに音楽の歴史を辿るのは少々退屈するのだが、最初に述べたように「精神史」ということで、その時代の文化や大学を中心とする教育の動きと結びつけて、音楽にかかわる人々の姿を生き生きと描きだしながら話が進められているので、興味をもって読み進むことができる。興味がわいたら、ここで紹介されている音楽作品を捜して聴いてみればよいのである。音楽が生み出された社会の状況を知り、その音楽を作り出し、楽しんでいた人々の心に迫ることにより、さらに音楽を深く理解し、楽しむことができるのだということを改めて考えさせる書物である。
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はじめまして

初めてコメントさせていただきます。

グレゴリオ聖歌とポリフォニーの違いをよく知らなかったのですが、時代的流れ、背景がそうなっていたのですね。

音楽を残したいという意思のお陰で、今楽しませてもらっています。
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