愚問賢答

2月23日(月)晴れ、温暖、17:01頃地震があった。

 もう30年以上昔に死んだ私の父親があるとき、山本七平(1921-1991)の講演を聞きに行ったと話してくれたことがある。講演の内容がどのようなものだったのかについての記憶はない。記憶しているのは、講演の後で客席からこんな質問が出たという話である。「ローマはなぜ滅びたのですか?」 これは愚問である。山本はローマ史の専門家ではないからである。これに対して山本は苦笑していたが、「ギボンの『ローマ帝国衰亡史』でもお読みになったらいいでしょう」と答えたそうである。

 山本七平は好きではないが、この答え方は気に入っている。歴史上のいろいろな問題について、自分の頭で考えることが必要で、他人に結論を教えてもらうのはあまりにもつまらない。自分で本を読んで考えなさい、まさに愚問賢答の一例であろう。

 賢答であるというのには、もう一つ理由がある。ギボンの『ローマ帝国衰亡史』は私も途中まで読んだ記憶があるが、キリスト教のことをよく言っていない、キリスト教のおかげでローマは滅びたといっているような書物である。クリスチャンの山本がその本を読めというのはなかなか奥の深い発言ではないかと思う。

 また、「ローマが滅びた」というのは一面的な見方である。確かに統治機構としてのローマ帝国は姿を消したが、その遺産は様々な形で現在にまで影響を残している。ヨーロッパの中でもローマ帝国の一部であった国々とそうでなかった国々とでは微妙な違いがある。ローマ帝国の言語であったラテン語はフランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語などに姿を変えて、今でも多くの人々の生活の中で生きつづけている。ギボンが『ローマ帝国衰亡史』を書いたということ自体、ローマ帝国の記憶がヨーロッパの人々の中に鮮明に生き続けていることの証拠である。アッシリアやヒッタイトといった古代の帝国とはその点が違う。「ローマが滅びた」というのは、あくまで一つの歴史観であって、そうでないという歴史観も存在しうる。さらにまた、ローマは滅びてしまってよかったという考えもあるだろう。

 もう一つ注意しておきたいのは、ローマの運命が日本人にとってどんな意味をもつのかを考えてみる必要があるということである。日本の国籍は一般に血統によって決められているが、これは古代ギリシアのポリスの場合と同じで、ローマの場合とは違う。ローマでは一定の財産と教養とがあればだれでもローマ市民になれた。ということは、ローマと日本は国家としての性格がかなり違っているということである。だから、そういうローマの運命になぜ、日本人として興味をもつのかということは、深く考えてみる必要があるのではないかと思うのである。

 歴史の見方は多様であり、その多様さを認識しながら自分の見方を深めていくところに楽しみがある。キリスト教信者であった山本七平が、反キリスト教的な歴史書の意義を認めながら、歴史に接していたことから多くのことを学べるはずである。
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