『「個性」はこの世界に本当に必要なものなのか』(4)

2月22日(日)雨のち曇り

 さまざまな学問分野において、個性はどのように位置づけられているのか、あるいはどんな役割を果たしているのかを問題にしていくことで、個性の本質を探ろうというのがこの書物の狙いであり、東京大学教養学部に属する各分野の研究者たちがかなり自由に自分の意見を語っている。これまで取り上げた1~6章では、認知神経科学、文献学、生態学、哲学、物理学、統計学の各分野からの意見が述べられた。一方で個性は、生き残りのための可能性を高めたり、新しい領域を開拓するのに貢献するものとして捉える意見があり、かと思うと結果として形成されるものだとか、一種の呪いだとかいう意見も述べられてきた。

 第7講では政治学の立場から鹿毛利枝子さんが個性について語っている。
 政治は社会の欲求にこたえることをミッションとしているので、多様なニーズを反映させていくうちに、その個性を形成するという。欲求は社会の状態によって変化するものであり、政治の個性もどんどん変化していく。しかしすべての欲求が政治に反映されるわけではなく、選挙制度がその中で大きな役割を果たしている。小選挙区制は欲求の多様性を反映しにくく、逆に比例代表制はもっともよく反映する。しかし、選挙制度以外にも、人々の欲求の意思表示を阻む要因がある。政治的な意見の異なる人々が頻繁に交流することになると、各人が自分の意見がよく分からなくなり、その結果多くの人々が投票に行かなくなるという現象が観察されている。逆に、政治的な意見が似通った人ばかりが頻繁に接するようになった場合は、人々は投票行動に積極的になるという。
 これらのことからもわかるように、政治と深いかかわりをもつのは個人よりも団体のレベルでの欲求である。その意味では日本は団体の活動を支える仕組みが十分に整ったものではなく、寄付行為が文化として十分に根付かず、制度的にもまだ整備されていないのが問題である。
 国家の政治制度は、すでに実績のあるものや結果の出ているものを他の国々から取り入れることで作られてきている。日本を含めて多くの国は、それぞれの時代に世界をリードしている大国や、文化的に優れている国を手本にして政治制度を決めてきた。その意味で政治の個性は「いいとこどり」によって形成されてきたといえる。少なくとも、政治の場合には「個性とは、さまざまなアイディアを借りる中ではぐくまれるもの」と言えるのではないか。
 鹿毛さんの話は、これまでとはだいぶ様相が違う内容になっているが、現在の日本の政治や社会の問題を考えるうえで重要な手掛かりが含まれていて、それなりに興味深い。外国の制度を「いいとこどり」しながら自国の個性を形成していくというのは、政治だけのことではないと思うので、この点も参考にしていきたい。

 第8講では天文学の立場から蜂巣泉さんが個性について論じている。
 恒星にせよ、惑星にせよ、星の個性の基本的な部分は、ほとんど生まれたときの初期設定で決まる。中でも大きな決め手となるのは質量である。とはいうものの、惑星の個性についてはわからないことが多い。というのは、惑星には比較の対象がなかったからである。太陽系の外にある惑星のことを「系外惑星」というが、その存在は長く確認されていなかった。そのため、比較のしようがなかったのである。
 しかし1995年にジュネーブ天文台の研究者たちが、ぺガスス座51番星という恒星に系外惑星を発見したことにより、事情は一変した。系外惑星が見つかって、比較の対象が出てくると、惑星について今までわからなかったことがどんどんわかってきたり、今までは当たり前だと思っていたものが、実は特別な個性だったとわかることが出てきた。
 その中で、地球の個性は、それ以上に分かっていないものだといえるかもしれない。地球と厳密に比較できるような系外惑星は、まだ見つかっていないからである。地球がもつ究極の個性ともいえる声明の存在条件についても、まだ確かなことは言えない。もっと惑星同士、惑星系同士の比較を進めていく必要がある。自分だけをサンプルにしてい売るうちは、自分のことは把握できないものである。「外にあるものを見るからこそ、内側のことがわかるんです。少なくとも天体を見るかぎりでは、そういえると思いますね」(147ページ)と蜂巣さんは話を結んでいる。

 今回の2つの話は、これまでの流れとは様相を異にするもののように思われるが、個性は他者からの影響を受容して形成されるという鹿毛さんの議論、個性を理解するためには外に目を向け、比較分析をする必要があるという蜂巣さんの議論はそれぞれ重要な論点を提示するものであるといえよう。選挙の投票率の低さが、政治的な意識の低さの反映ではないという鹿毛さんの議論は、個性の問題とは別に傾聴すべき意見で、そうなると低投票率を前提とした政治的な意思決定の仕組みを考えていく必要もあるのではないかと考えさせられた。
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