0.5ミリ

2月16日(月)曇り

 加齢につきものの物忘れ――事故で、2月16日中にブログの更新ができなかった。それで、17日になってこの記事を書いている次第である。

 横浜シネマ・ベティで安藤桃子監督作品『0.5ミリ』を見る。

 ある日、ヘルパーのサワ(安藤サクラ)は派遣先の主婦から、寝たきり状態になって死期間近のおじいちゃんに一晩添い寝してくれという依頼を受ける。規則やぶりではあるが、多額の金を出すといわれて引き受けた彼女は、当夜、予期していなかった(あるいは予期できたかもしれない)大事件に巻き込まれる。そのため、職を失い、寮も出なければならなくなった彼女は、夜の街をさまよううちに、カラオケルームで押し問答している老人を見つけて、強引に彼の相手として部屋を確保し、はじめのうちは困惑していた老人から感謝されるようになる。

 その後、彼女は駐輪場の自転車をパンクさせたり、自転車泥棒を働いたりしている元自動車整備工の茂じいちゃん(坂田利夫)や女子高生の写真集を万引きする元教師(本人は、今でも教えているといって、出かけてゆくのだが、どこかで時間をつぶして戻るだけらしい)義男(津川雅彦)のような老人を見つけては押しかけヘルパーとしてその面倒を見ながら、彼らの生活に入り込んでゆく。

 老いと言っても、多様であり、個性がある。彼女が出会う老人たちはそれぞれの楽しみや苦しみ、悩みを抱えているし、周囲の人間との関係は一様ではない。元海軍の軍人だった義男は繰り返し戦争の体験を語る。『0.5ミリ』という題名は彼の言葉に基づいている。1人1人の人間はいわば0.5ミリという取るに足りない存在であるが、みんなが自覚をもって団結すれば…ということであろう。しかし、この映画はその団結が極めて難しいことも語っているように思われる。

 サワは最初の老人からもらったオーバーを着続け、茂から譲られた自動車を乗り回す。一種の『わらしべ長者』的なストーリーになるかと思うとそうではない。中盤は笑いに満ちているのだが、必ずしも喜劇として作られているわけではない。老いを題材として取り上げていることも手伝って、この作品が内包する問題は多様である。「老い」を強調してきたが、映画では家庭崩壊や地域の変容などの問題も取り込まれている。ただ、その結果として、原作者であり、脚本も担当している安藤桃子監督は、十分にストーリーを練り上げられなかったという印象が残る。上映時間が196分ときわめて長いのもそのためであろう。

 主演のサワを演じている安藤サクラの生き生きとした演技が魅力的で、老人たちの姿と対照的な彼女の若い力が、ストーリーの弱さを補って映画を見どころのあるものにしている。個々の人間にはできることとできないこととがあり、昔はできたことが年をとってできなくなったり、あるいは経験を積んだことによってできなかったことができるようになったりする。自分ができないことを、若い人間が軽々とやってのけるのは、老人にとってあまり愉快なものではない。そうはいっても、援助してもらわなければ生きるのは難しくなる。そういうジレンマがよく表現されていたと思うのである。

 お笑いの坂田利夫の出演場面もさることながら、どこまでが演技で、どこまでが本性なのかわからないような津川雅彦の演技が何ともおかしい。50年余り彼の演技を見続けているので、感慨もひとしおではあるが、やっぱりおかしい。それでも観客の大部分が年配者だったので、笑いよりも共感の方が強かったようにも思われる。若い人にも見ていただきたい映画である。笑ってみているだけでもいい。それでもどこかに「老い」というものへの関心が残るはずである。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR