百円の恋

2月7日(土)曇り後雨

 横浜シネマ・ベティで武正晴監督の『百円の恋』を見る。上映開始直前に劇場に到着したのだが、中に入ってみると入場者が多くて、席を捜すのに苦労した。俳優の故松田優作氏の出身地である山口県の周南映画祭で新たに設けられた第1回「松田優作賞」のグランプリを得た同名の脚本(作・足立紳)の映画化。周南市をはじめ、山口県の各地でロケをされているようであるが、舞台が特定されているわけではない。

 ヒロインの斎藤一子(安藤サクラ)は32歳。短大を卒業して10年以上たっているのに、実家の仕事を手伝うでもなく、親に寄生している。ところが妹が離婚して、子どもを連れて戻ってきたことで、そのような生き方を批判されて取っ組み合いのけんかを演じた末、一人暮らしをすることになる。それも母親からもらった金でどうやらアパートを借りるなど、前途多難な成り行きである。

 やっと見つけた仕事は百円ショップの深夜の仕事。店長を始め、同僚はひどく癖のある人物ぞろいで、店の金を着服して首になったのに、ほとんど毎日店に押しかけて食べ物をあさっている女性など、不可思議な人間模様を目の当たりにすることになる。その中で、店の近くにあるボクシング・ジムで黙々と練習に励んでいるボクサー(新井浩文)に魅力を感じる。店の同僚と彼の最後となる試合を見に出かけるのだが、その試合で彼はノック・アウト負けを喫する。しかし、彼女はボクシングにも魅力を感じる。

 風邪をひいて倒れたボクサーを介抱したことでしばらくは一緒に暮らした2人であったが、ボクサーは豆腐を売り歩く女に惹かれて、去っていってしまう。取り残された一子はボクサーが練習していたボクシング・ジムに入門してボクシングを始める。そしてテストに合格するが、32歳という年齢は試合のできる上限である。それでも彼女は試合をすることを熱望する。店長と喧嘩をして百円ショップは首になるが、実家の母が倒れて、父親から戻って店を手伝ってくれと言われる。

 ほとんど何もせずに暮らしていた主人公が何かのきっかけに活動的になるという設定は民話的と言っていいのかもしれない。民話の主人公はたいていは男性であったが、これはその女性版である。しかし、生き方を変えてもそんなに明るい結末が待っているわけではないというのが現実である。そういう人生を生きるヒロインを演じている安藤サクラの存在感が映画を引っ張っている。何か輝くこともなしに暮らしていたのが、ボクシングに出会って、人生が変わり始め、特に後半、試合が決まって練習に励むようになるところに精彩がある。ゆっくりペースを守って走る方がトレーニングとして有効なはずだが、疾走を続けるところにその性格が現われているようである。

 この映画に出て来るほど地元に親しまれているわけではないが、私の身近にも弁当屋は何軒かあるし、たいした選手はいなかったはずだが、ボクシング・ジムもあった。豆腐の行商も回ってきたことがある。というように、この映画に出て来る人物や設定の多くが身近なものである。それぞれにどんなドラマが潜んでいるか、普通は考えても見ないのだが、そこから新しい人生を目指すドラマを映画は描こうとしている。努力はなかなか成果を結ばず、空回りが多い展開となるのだが、そういう主人公の姿を映画は温かく見守ろうとしている。温かく見守ったところで、主人公の運命が好転する可能性は乏しいのだが、その温かさに希望を託しておくことにしよう。
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