繕い裁つ人

2月2日(月)晴れ

 109シネマ川崎で三島有紀子監督作品『繕い裁つ人』を見た。平日の昼間の上映であったが、かなりの観客数で、その大半が年配の客であった。こういうこともあるのだな、と少し心強くなった。

 神戸の山の手の住宅地。住まいを作業場と店にしたらしい南洋裁店は、現在の店主である市江(中谷美紀)の祖母が始めた店で、地域の人々にずっと愛されてきた。市江の主な仕事は、祖母が仕立てた洋服を繕い、店にしばしば顔を見せる地域の常連客のためにオーダーメードの洋服を仕立てることである。旧式のミシンを踏んで、職人技を駆使する彼女の腕は地域の信頼を得てきた。

 そういう彼女の前にデパートの洋服売り場の担当者である藤井(三浦貴大)という男性が現われ、店に足しげく通うようになる。祖母のデザインを踏襲するのではなく、彼女自身のデザインによる洋服を作っていきたいという気持ちが彼女のどこかにあるのだという。市江のデザインによる洋服を独自ブランドとして売り出したいというのである。市江は、自分は顔の見える顧客のためにしか洋服を作らないと頑固にその申し出を拒否し続ける。しつこく彼女のもとに通い続ける藤井には洋服に対するこだわりを産む彼なりの理由があった・・・・。

 物語には起伏がそれほどないのだが、洋服をめぐり、しっかりとした手作り感のある仕事を重視する市江と、ブランド化、大量化を目指す藤井の哲学がぶつかり合う。目に見える激しい諍いはないが、何のために洋服を仕立てるのかをめぐって静かな理論闘争が続く。そしてその背後では、衣類を買ってはすぐに捨てる大量消費の価値観が浸透してきている。
 そういう展開を描くために、坂道の多い神戸の市街地と住宅地の情景が巧みに利用され、特に登場人物が坂道を上ってくるシーンが多用されているのが、効果を挙げている。有名な神戸の夜景も、片鱗だけだが捕えられている。その一方で屋内のシーンは逆光の画面が使われたり、絵画的な効果を狙った場面が多く、市江を演じている中谷美紀があまり表情の変化を見せないことも手伝って、静的だが強い印象を残す。

 映画の展開の中で、市江も藤井も少しずつだが考えを変え、歩み寄り始めるように思われる。しかし、それ以上に大量消費の価値観に毒されかけていた少女たちが、大人たちが洋服を大事にしている姿に接して考えを変え始めるくだりが最も重要なのではないか。三島有紀子監督の作品では『しあわせのパン』がよかったが、そこでも手作りの作業を大量生産・大量消費よりも大事にしようという考えが出ていた。いくつかのエピソードをつないだ『しあわせのパン』に比べて、物語にまとまりのある分、この作品はそれを上回る感動を与えてくれる。このところ、海外で大量生産された衣類しか買って着ていないので、改めて自分の生活について考え直すきっかけになりそうである。

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