『「個性」はこの世界に本当に必要なものなのか』(2)

1月29日(木)晴れ後曇り、次第に寒さが厳しくなる。

 第3講では、吉田丈人さんが生態学の立場から、「個性とは、種の存続可能性を高めるために必要なもの」と、これまでのお二人とは全く違った角度からの意見を述べている。生態学では、生物の個体間や種間、生態系、地球環境など、さまざまなレベルの相互作用を扱っているが、個性はそのすべてにおいて存在しているという。ただ、そこで注目されるのは主として行動の部分であり、同じ種の生物の中でも個体によって餌を積極的にとりに行くとか、消極的だとかいう違いがあって、それを個性ととらえている。このような個体の行動傾向は、別の種との関係にも影響を及ぼす可能性があり、種の中にどんな個性をもった個体がいるのか、言い換えると種内の多様性の高低によっても、種間の関係が変化するという。
 自然界では、自分たちがどんな環境下に置かれるのかを、あらかじめ予測することはできない。それでも、種内の多様性が高ければ、突然の環境の変化にも対応できる可能性が高まる。確率論的な話として、多様性を備えている種のほうが持続可能性が高い。
 目を人間に向けると個性は「やはり人間という種にも必要なのではないか」(62ページ)と思われる。個性のもたらす多様性は種の持続可能性を高めるものだからである。人間の社会の持続可能性を高めるために、多様性をもつことは欠かせないという。とすると、社会を画一的な方向にもっていく企ては警戒する必要があるということである。

 第4講では原和之さんが哲学の立場から「個性とは運命でもあり、呪いでもある」と、不景気で物騒に聞こえる議論を展開している。「個性が強い人は付き合いにくい。そう感じたことがある人は少なくないでしょう。そして、おそらくその実感は、決して的外れなものではないだろうと思います」(68ページ)という感想から議論が展開されるのだから、この先どんな話になるのか心配になる。
 西洋の思想史ではもともと、普遍性とか理念とかに価値を置いて、個々の人間はその反映にすぎない、似姿にすぎないと考えることが支配的であった。その後、人間自体の価値が再認識されるようになって、人間の外部にある価値や理念を重視するのではなく、人間性を進歩させることによってある種の普遍的な価値を実現できるのではないかという考えが有力になった。しかし、それも行き詰まってしまい、結果として個性が重視されるようになったという経緯があるという。「いまあるままの私たちに価値を置く」(69ページ)というのが個性重視の根底にある考え方であると思われる。しかし、各個人の中に価値があるということになると、人々はどうやってまとめればいいのかわからなくなってしまう。
 さらに個々人が個性を発揮することだけでなく、それらの個性を社会の側がきちんと受け止める仕組みをもっているかということも問題である。さらに個性をもっているということは、他と違う、他と安易に協調しないということであり、そのための孤立に耐えられるかという問題もある。また個性を認めるという場合、どういう個性をどの程度まで認めるかということも具体的には問題になってくる。
 とはいうものの、近代以降の哲学では人間の在り方は他者との関係の中で決まるという考え方が有力になってきている。個性は何か固有のものとして存在するというよりは、何かに対する解決の仕方であり、対応の仕方にあたるものだと考えられている。そうなってくると個性的な人間になるために努力するなどということは考え方としておかしくなってしまう。ただし、個性を生かすということは、個性が単独で機能するものではなくて、適切な環境に置けば機能するという意味で現実的な可能性をもつ。また適切な環境は他人から与えられるだけでなく、自分で探すこともできる。
 以上の議論を踏まえて原さんは、個性とは「私たちの思考や行動に、そうならざらざるをえないような方向づけをするもの」(79ページ)であり、一種の「呪い」であるとまで言っている。だからこそ、社会の方にそれを受容する仕組みや文化が必要であり、社会に向けてそれぞれの個性を見分けて、その意義を説明できるような「通訳」的な存在と評価の仕組みが必要になる。それでもうまくいかなかったらどうするかという問題は残る。個性重視の結果として生じる否定的な面も含めて、どうするかを考えていく必要がある。

 今回も、個性について手放しでその意義を強調するような意見は展開されず、肯定面も否定面も視野に入れたうえで、それをどのように社会の中で生かしていくかが重要であるという議論が中心になっている。個性を重視していくことの必要性はなんとなくわかってくるが、それを生かす方策について具体的に提言できなければ、その主張の多くが絵に描いた餅になりそうである。これまでのところ、具体的な提言はなく、思い切って提言するというのも一つの個性かな、と思ったりする。
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