ダンテ・アリギエリ『神曲 地獄篇』(22)

1月27日(火)晴れ、温暖

 第21歌で地獄の第8圏第5巣窟にやって来たダンテとウェルギリウスは、祖国と市民への裏切りである汚職の罪を犯した罪人たちが生前に犯した罪に対する罰として、タール状の液体の中で煮られている様子を見る。ウェルギリウスは悪魔たちと交渉し、10人の悪魔たちが2人を案内していくことになる。

私達は十体の悪魔とともに歩いていた。
ああ、恐ろしい道連れではある。けれども教会の中では
聖人と、飯屋では穀つぶしと席を並べなければならないのだ。
(319ページ、それゆえ、地獄にいる以上、悪魔が道連れになるのも当然ということになる。) 第22歌では、第21歌に引き続いて第5巣窟の様子が描かれるが、その罪を糾弾されるのは、宮廷人たちとなる。

 悪魔たちが近づいてくるのを見ると、罪人たちは煮えたぎった瀝青の中に姿を隠そうとするが、中には逃げきれずに悪魔の手にする刺す股によってとらえられるものがいる。捕えられた罪人は自分がナヴァ-ラ王国の人間で、収賄の罪を犯したためにこの罰を受けているという。ナヴァ-ラ王国は、現在のスペインとフランスにまたがって存在した小王国である。ここの王様であったアンリ・ブルボンがフランス王アンリⅣ世となったことにより、消滅することになる。日本にキリスト教を広めようとやって来たフランシスコ・ザビエルはこの王国の宰相の家柄の出身であるが、いずれもダンテの時代からかなり後の話になる。

 この巣窟で罰を受けているイタリア人はいないかという問いに答えて、ナヴァ-ラ人は先ほど別れたばかりのイタリア人が瀝青の中にまだ身を潜めているはずだと言う。その人物について
金を懐に入れ、即決で無罪を宣告してそいつらを放免した。
そうあいつは言っている。おまけに他の職務でも
汚職をやったが、小物じゃねえ、その道の王者だった。
(326ページ)という。そういいながら、彼は悪魔たちから逃げ出す策略を考え、彼らが遠ざかるように求める。そして悪魔たちの目を盗んで、瀝青の中に逃げ込む。悪魔たちは慌ててその後を追い、捕まえようとするが、恐怖に駆られているナヴァ-ラ人に追いつくことはできない。そこで、悪魔たちは悔しがるが、
それは鷹が近づいた時に、
アヒルがいきなり深く潜り、
鷹は悔しがり、落胆して再び上へ戻る様子と違わなかった。
(330ページ)

 このために悪魔たちが仲間割れを起こし、2人の悪魔が仲間喧嘩を始め、
…ついに二体とも
煮えたぎる沼の中央に墜落した。
(331ページ) 残った悪魔たちは彼らを助けようとするが、
二体はすでに堅くなった外皮の中で焼き上げられていた。
(332ページ) 

こうして私達は立ち往生している奴らを後にした。
(同上) 混乱する悪魔たちを後に残して、ダンテとウェルギリウスは先を急ぐ。それにしても、焼き上げられてしまった悪魔たちはどうなるのであろうか。あるいはまた生き返るということであろうか。

 第22歌は動きのある展開となっているだけでなく、ところどころ滑稽に思われる描写も見られる。また現実を超えた世界を描くために、われわれが日常目にするような場面がその手掛かりとして使われている個所も目立つ。ここでは、紹介しなかったが、冒頭、ダンテとウェルギリウスが悪魔とともに進む描写の中で、騎士たちの行進の模様が思い出されている。「都市が発達した後の時代の高貴なる宮廷人、騎士たちの戦術は騎士道とは無縁だった」(578ページ)と解説の中で翻訳者の原さんは書いている。このことからわかるように、悪魔は実はダンテの時代における騎士たちの姿を映し出すものであった。ここではダンテの政治の腐敗への怒りや、その腐敗にまみれた騎士に対する嫌悪とともに、平和への希求を読み取るべきなのであろう。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR