戸塚真弓『パリの学生街――歩いて楽しむカルチェ・ラタン』

12月5日(水)
 戸塚真弓『パリの学生街――歩いて楽しむカルチェ・ラタン』(中公文庫)を読み終える。
 パリに出かけたのは1度きりで、それも3泊4日、国際会議に出席するためだったので町なかを歩くことはほとんどなかった。それで、この書物の細部についてあれこれ論じるほどの知識も経験もないが、少しだけ感想を交えて中身を紹介してみたい。
 東京の山の手と下町、ロンドンのウェスト・エンドとイースト・エンド、それぞれ優劣というよりも個性の対比がある。パリの右岸と左岸もその個性の対比が際立っていると言えそうである。「右岸はブルジョワ風の豪奢と都会風のエレガンスに満ち、伝統を大切にする保守的なイメージが強い。左岸は知的で、自由で、進取の気風に富んでいると言われるが、なんにつけ質実で簡素だ。前衛的なものを好み、革新的なイメージがある」(10ページ)と著者はその特徴を要約する。
 カルチェ・ラタン(ラテン街)は左岸にある。ここにはソルボンヌ学寮があり、ヨーロッパ中から学生が集まってきた。彼らの共通語はラテン語であったので、一帯にこのような名がついたのだと言う。学生と先生だけでなく、商人もいるし、外国からの移住者や観光客も行き交う慌ただしい街ではあるが、古い時代の面影も残っている。そんなこの地区の暮らしを著者は愛着をこめて描いている。
 公平を期して書いておきたいこともある。NHKラジオ「まいにちフランス語・応用篇」は梅本洋一さんがフランソワ・トリュフォーと行ったインタビューを中心に構成されているが、11月8日の放送では生まれも育ちもパリであったトリュフォーが映画の中のパリについて語っていた。彼は当然この都市を舞台とする多くの作品を作ったが、主な舞台は右岸におかれていた。トリュフォーやゴダールを中心とするヌーヴェル・ヴァーグは右岸で展開されていた映画運動であったのである。梅本さんとパートナーのエレオノールさんは右岸の方が大衆的であると述べていたが、そういう見方もある。
 この書物で一番印象に残ったのはフランス人がブルジョワと中流階級を区別していることである。英国のように貴族階級が残っている国では、ブルジョワこそが中流階級なのである。階級というのは案外、普遍的な枠組みではないのかもしれないと思った次第である。
 硬い内容になってしまったが、この本の魅力は「ユシェット通りのギリシャ風サンドイッチ」のように町の様子を詳しく描写した記事にある。街角から漂う魅力的なにおい、嫌なにおいが行間から伝わってくる。パリに長く住む著者のようにはいきそうもないが、この街の雑踏の中を歩いてみたいと思う。
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