酒井順子『地下旅!』

2月17日(日)晴れ

 このところ、読みたいと思う本がなく、以前読んだ本を読み返すだけだったのが、2月16日に酒井順子『地下旅!』(ちかたび)(文春文庫)、本日、原武史『沿線風景』(講談社文庫)を読んだ。ともに鉄道関係のエッセーをまとめたものであり、両者ともに車内での読書が好きだと言い、沿線の食べ物にも無関心ではない。さらに原さんの著書の中には酒井さんの『女流阿房列車』についての言及がある(269ページ)。

 本日は酒井さんの本について。東京都内を走る地下鉄(東京メトロ、都営)に乗って駅の近くに広がる目立った場所を探訪しながら、その周囲の人間模様を描く内容が主となり、それに札幌、仙台、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡(酒井さんは博多と書いている。それもいいねえ)と香港での地下鉄についてのエッセーが付け加えられている。路線も駅も気分に任せて取り上げられており、こちらも自分の経験に即して自由に読書を楽しめばよいのである。その重なるような、重ならないような感じがよい。

 特に印象に残るのは、Up to dateとは言えないが、有楽町線の護国寺駅で降りて鳩山会館を訪問するくだり、スタンプを押してみると「友愛」の二文字。原さんの著書の第22話に千葉県館山市にある元鳩山一郎の別邸で現在は旅館になっている鳩山荘松庵には「なぜか鳩山由紀夫ではなく鳩山邦夫の揮毫『友愛』が飾られている」(267ページ)という記述と読みあわせると余計に面白い。酒井さんは、「・・・鳩山一族をメインキャラクターとしたテーマパークと言うこともできる。・・・子供がミッキーのぬいぐるみを買う感覚で、私も鳩山会館絵葉書を購入いたしました」(71ページ)と冷やかし半分の様子である。

 その一方で都営浅草線の西馬込駅近辺ゆかりの文学者たちについての記述など、下調べが行き届いていることを感じさせる。宇野千代、尾崎士郎、稲垣足穂、川端康成、三島由紀夫。三島の自宅が今も「三島由紀夫」の表札を掲げているのを見た後に、「三島邸から去る道も、坂また坂が続きます。作家たちは、多くの坂が織りなす陰影があるからこそ、この地に住んだのかもしれません。常人よりも強い光と陰を自分の中に同居させているのが、作家という人々。馬込にあるたくさんの坂道は、そんな作家たちの心象をあらわしているような気が、するのです」(120ページ)という結びが生きている。

 実は私も地下鉄はわりに好きで(そうでなければこの本を読む訳がない!)、ここに出てくる中では仙台と香港以外は、部分的にではあるが全部乗っている。さらに言えば、ロンドンとソウルで地下鉄に乗っている(おそらく酒井さんも乗っているが、省いたのであろうと思う。「ダブリン大学の有名な図書館」(31ページ)などとさりげなく書いているのだから(どうせなら、「ダブリン大学」ではなく、「トリニティ・カレッジ」と書いてほしかった)。ニューヨークやパリを含め、おっとモスクワも忘れずに海外編も書いてほしいと要望しておく。
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