ダンテ・アリギエリ『神曲 地獄篇』(19)

1月6日(火)午前中は晴れたり曇ったり、午後風雨が強かったが、夕方になると雨が止む

 第19歌は善と結びつくべき教会を、世俗的な利得のために利用する聖職売買を指弾するダンテの言葉で始まる。地獄の第8圏第3巣窟は聖職売買の罪を犯したものの魂が閉じ込められている。
今、おまえ達に裁きのラッパが鳴り響くことになる。
(276ページ)

 次いでダンテは、フィレンツェの聖ジョヴァンニ洗礼堂の洗礼に使う陶器の器を壊して、窒息しかけていた人の命を救った自分の体験を語り、
この話があらゆる人を偽りから解放する印とならんことを、
(278ページ)と願う。教会の任務は豪華な聖堂の建立ではなく、人類の救済であるはずである。第3巣窟には彼が壊した聖物にそっくりな穴に罪人たちが逆さにして入れられ、
全員の両足裏に火が燃え盛っていて、
そのために膝関節が激しく震えていた、
(同上) 罪人たちの1人にダンテは話しかけることを許される。中世には殺し屋や暗殺者は逆さ吊りで穴に徐々に生き埋めにされ、聖職者が地面に耳をつけ最後の告白を聞く慣わしであった。ここでは教皇が教会あるいはキリストの暗殺者として罰せられていて、俗人であるダンテが告白を聴くことになったのである。そこで罰を受けていたのはローマ貴族オルシーニ家出身の教皇ニコラウスⅢ世であった。彼は自分の一族のものを教皇庁の重要な役職につけた。それは教皇庁の政治的な自立のための措置であったが、教皇庁を世俗的な一政治勢力にしてしまうことでもあった。

余の頭の下には聖職売買にかけては余の先達となりし
同位の者どもが引きずり込まれ、
岩盤の裂け目の中で平らに潰されている。
(282-283ページ) 教皇位は世襲でないために、教皇庁内の人々は勢力を得ようとしてさまざまな特権を売りに出し、それと引き換えに得た金銭を貯めて自らの力を守る手立てとせざるを得なかった。だから彼らは地獄でコインのように丸く平らに潰されているのである。

 ニコラウスⅢ世はボニファティウスⅧ世とクレメンスⅤ世の罪を語る。ボニファティウスは世俗的な権力である国王の力を利用しながら、神聖ローマ帝国の影響力をイタリア半島から排除することに成功したが、その結果強大になったフランス国王に敗れて教皇の権威を失墜させる。クレメンスは教皇庁をローマからアヴィニョンに移し、結局のところフランス王の言いなりになった。

 ダンテは彼の話を聞き、聖書の黙示文学の言葉を使いながら、聖職売買を非難する詩句を歌う。

あの者に対してこのような詩を私が歌っている間、
怒り、あるいは屈辱があの者を引き裂いたからだろうか、
その両足が激しく空を蹴っていた。
(287ページ)

 ダンテの詩を聞いたウェルギリウスは両腕で彼を抱え、彼をもと来た道に戻すと、さらに先へ進もうとする。

そこからは新たな深い谷が私の前に広がっていた。
(288ページ)

 第19歌はダンテ自身がフィレンツェ市の政治にかかわる中で、教皇庁とも実際に交渉に当たり、その実態をよく見聞きしていたためであろうか、彼自身の発言が目立つように思われる。また、彼が自分の個人的な経験を史の中で語るのも異例のことであったそうである。「ダンテはこれまで、イタリア都市国家群の混乱、絶対王制国家への途上にあったフランス王国の台頭、世界平和の使命を持つ神聖ローマ帝国の凋落を検証してきた。そして、この歌において、彼は聖職売買という概念を梃子に、戦乱の根本的な原因を世俗権(政治権力拡張を目指す教皇庁に見出したように思われる」(570ページ)と原さんは解説している。
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