ダンテ・アリギエリ『神曲 地獄篇』(17)

12月18日(木)晴れ、昨日に比べて寒さが和らいだ感じである。

「尖った尾の凶獣がここにいる。
山々を越え、城と軍を滅ぼす。
世界を腐臭に満たす獣がここにいる」。
(248ページ)

 ダンテとウェルギリウスは暴力者たちの霊が罰を受けている地獄の第7圏の第3小圏にいるが、ウェルギリウスはこう言って、獣に向かって手招きをする。すると、さらに奥深くにある第8圏から奇怪な姿をした悪魔ゲリュオーンが浮上してくるのが見えた。「この悪魔は詐欺の化身であり、善人の顔、蛇の胴、獅子の腕を持つ三つの生物の異種混交体である。善良な見せかけで狡猾に人間を欺き、力で押さえ込み、二面性を露にした瞬間、二股の毒針を持つその尾でとどめを刺すとされる。神の完全性を表現する三は魔王ルシフェルの三頭と同様、ここでは悪の深さを示している」(原基晶さんによる解説、561-2ページ)。

 ウェルギリウスは、崖の下にある次の第8圏に自分たちを下すよう悪魔と交渉し、ダンテにはその間に、暴力者の圏に住む最後の罪人、高利貸、つまり大銀行家、現代の言葉では金融資本家を見てくるよう告げる。

こうして私はその第七圏の
縁の際をたった一人で
さらに進んだ。そこには悲惨な者どもが座っていた。

その者どもの苦しみは目を通って外に激しくあふれ出ており、
ここ、そこと手をせわしなく動かして
ある時は火の蒸気を、ある時は灼熱の地表を避けようとしていた。
(252ページ)

その幾人かの顔に視線を向けてみたが
苦痛の火が今も降りかかっているあの者どもの
誰一人として見分けられなかった。だが私は気づいた、

それぞれの首には
決まった色と決まった意匠の財布がぶら下がっていたが、
それをその者どもの目は、貪り喜んでいるようである。
(252-3ページ) ダンテには、個々の特徴を失ってしまった罪人たちを見分けることができない。この場所の罪人には貴族が多く、胸にぶら下げた家紋入りの財布はその罪人の出た家を示している。そこで彼は紋章により彼らの家を知ろうとする。そしてフィレンツェや、その他のイタリアの都市の銀行家たちを見出す。ここでその紋章を取り上げられたパドヴァの銀行家スクロヴェーニ家は、贖罪のため画家ジョットにパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂の壁画の制作を依頼した。これは今日も見ることができるジョットの傑作の1つであり、たしかNHKラジオのまいにちイタリア語の『イタリア:24の物語』にも登場したという記憶がある。なお、ジョットの名は『煉獄篇』で言及されることになる。

 ダンテはさらにとどまり続けることが、ウェルギリウスの怒りを招くことになるかもしれないと思い、引き返す。すると、ウェルギリウスは既にゲリュオーンの背にまたがっており、ダンテも乗るように促す。彼がその席を確保すると、ウェルギリウスはゲリュオーンに第8圏へと下降しながら飛んでいくように命じる。

獣はゆっくりゆっくりと泳ぎながら進む。
旋回して降りていくが、ただ
下から顔に風が吹きつけていることしかわからない。

既に私には、滝壺が右手のほうで
私達の下に恐ろしい轟音をあげているのが聞こえ、
そのため視線を下に向けながら顔を覗かせてみる。
(259ページ)

 ダンテが恐る恐る覗いた下の世界ではさらに過酷な罰が与えられていることが見て取れた。ゲリュオーンは2人を奈落の底の、切り立つ岩盤の立ち上がり際に置き、2人が下りたことを確認すると、すぐに姿を消していった。2人はいよいよ地獄の第8圏に達したのである。

 当時の通念では高利貸はキリスト教の教えに背く、異端の罪を犯していると考えられていたが、ダンテは彼らの利益の追求が都市間の戦争の原因になっていると考え、高利貸を暴力者の群れの中においたのだという。彼が当時の社会の問題を深く追及する目をもった詩人であったことを改めて考えさせてくれる個所である。
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