『太平記』(20)

12月15日(月)晴れ

 今回から第4巻に入る。

 元弘元年(1331年)9月29日に、笠置の城が攻め落とされ、後醍醐天皇が囚われの身となったという知らせが伝わると、人々の心も変わって、あちこちに身を隠しておいでになった後醍醐天皇の子息である宮様方が探し出されて六波羅に連行された。

 天皇と行動を共にしていた万里小路藤房、季房兄弟も笠置で捕えられた。その父親である大納言宣房卿までもが武士によって召喚され、囚人扱いをされた。すでに70歳を超える高齢であり、後醍醐天皇は遠方に移され、息子2人はことによると死罪になるかもしれないと聞き、長生きをしてきたためにこのような目に合うのかと悲痛な思いで歌を詠んだのであった。
 長かれと何思ひけん世の中の憂きを見するは命なりけり
(182ページ、命長きことをなぜ祈ったのか。この世で憂き目を見るのは命長らえたからのことよ。)

 後醍醐天皇のもとに仕えていた公卿殿上人は幕府に対して罪があろうとなかろうと、出仕をとどめられたり、官職を解かれたりして、隠棲したり、不満を抱きながら自宅で過ごしたりしていた。「運の通塞、時の否泰、夢とやせん幻(うつつ)とやせん。時移り事去つて、哀楽互ひに相替はる。憂きを習ひの世の中に、楽しみても何かせん、嘆きてもまた由なかるべし」(同上、運が開けることと塞がること、時を失うことと得ること、夢といおうか現といおうか。時が移り事が去って、悲しみと楽しみがお互いに入れ替わる、憂きことが習いの世の中で、楽しんでみてもどのような意味があろうか、嘆いてもし方のないことである。) 名文ではあるが、現とすべきところが幻になっていたりして、書き手自身が文章に酔っているところがあるような気がする。

 あくる元弘2年の正月に、鎌倉からの使者として問注所の執事である信濃入道道大(太田時連)が上洛、前年笠置城が陥落した際にとらえられた人々の流刑地を定めた。
 一宮である中務卿親王(尊良=たかよし親王)を土佐の畑(高知県幡多郡)に、第二宮妙法院(尊澄法親王、後に還俗して宗良=むねよし親王)を讃岐(香川県)に配流した。父の天皇を思う気持ちからであろうか、それとも衆生済度の志からであろうか、到着されるとともに三時の護摩という密教の修法を始め、続けられた。第四宮(静尊=じょうそん法親王)は但馬(兵庫県北部)に配流された。

 第九宮(恒良=つねよし親王、後に皇太子)はまだ幼いという理由で中御門中納言宣明卿に預けられ、この方だけは都にとどまることとなった。しかし、世の人よりも大人びた心根の方だったので、自分だけが都にとどまることを心苦しく思われ、せめてまだ白河に押し込められていると聞く父親に会いたいといわれた。ここで白河というのは今日の鴨川よりも東、東山との間の地域、現在の岡崎のあたりを言うのだが、後醍醐天皇が押し込められていたのは、もう少し南の六波羅であった。宣明は涙をおさえて、白河は遠方でございますよといいくるめようとするが、宮はお前のいうのは陸奥(現在の福島県)の白河であり、京の東の白河とは違うといって、二度と父親に会うことをせがもうとはされなかった。物悲しいご様子で中門のところに立っていられると、遠くの寺の鐘の音が聞こえてきたので、
 つくづくと思ひ暮らして入相の声を聞くにも君ぞ恋しき
(186ページ、物思いに沈んで一日を過ごし、夕暮れ時の鐘の音を聞くにつけても父君が恋しい。つくづくと鐘を撞く、思ひと日暮らしとを掛けている。) 幼少の宮様が作られた歌にしては大人びているのが却って人々のあわれを誘い、都中に広まったのであった。

 鎌倉幕府による処分は手続きとしてかなり乱暴に思われる。朝廷の構成員に対する処罰は形式的にでも朝廷の手続きを踏むべきだと思うのだが、直接幕府の、本来武家の問題を処理すべき機関の役員が登場して処分を進めている。そのあたりに幕府の混乱、余裕のなさを見るべきであるのかもしれない。もっとも承久の変の前例に倣ったのかもしれないが、何にしても手続きは尊重すべきである。ここで物語に登場しない第三宮(大塔宮尊雲法親王、還俗して護良=もりよし親王)は大和に潜伏中で、第5巻になって登場する。この後、後醍醐天皇の側近の公卿たちの処分が語られるが、それは次回に述べることにする。
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護良親王

 護良親王ですが、ずっとモリナガと読んできたのでおやと思っていまネットで調べたところ、モリヨシとする証拠がたくさん出てきて、いまそれが主流となっているのですね。知りませんでした。結局昔高貴の人がその生存中に名前で呼ばれるということはなかったわけだから、名前の読みというのはもともとあいまい、というか、後世の人が勝手に読み方を決めたような気もします。
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