大根と人参

12月10日(水)晴れ

 神保町シアターで、「伝説の女優 桑野通子と桑野みゆき」特集上映から、1965年の松竹映画で渋谷実が監督、桑野みゆきが出演している『大根と人参』と、1941年の松竹映画で小津安二郎が監督、桑野通子が出演している『戸田家の兄妹』の2本を見た。母の通子は31歳の若さで世を去り、娘のみゆきは20代の半ばで結婚のために引退し、ともに活躍期間は短かったが、映画の観客に強い印象を残した母子である。といっても、桑野みゆきの映画は多少は見ているが、通子の映画の方は全く縁がなかった。本日見た2本の作品は、共にこの母子の主演作ではなく、脇役で顔を見せているという程度の作品なのだが、一方は小津安二郎の原案に基づいて、彼を追悼する意味で作られた映画、他方は小津が戦前に監督した映画ということで、小津安二郎の足跡を辿るという見方もできる2本立てであった。このブログでは主として『大根と人参』について取り上げる。

 大会社の総務部長である山樹東吉(笠智衆)には妻の信代(乙羽信子)との間に4人の娘がいるが、3人は既に結婚し、末の恵子(加賀まりこ)だけが未婚で同居している。その恵子は東吉の友人の鈴鹿(山形勲)の息子の三郎(三上真一郎)と恋仲で、彼を婿養子にするという話が進んでいる。ところが、中学校の同期会(いかにも小津映画らしい場面の設定)で、一番の秀才だった秋山(信欣三)が癌で余命いくばくもないという話題をめぐり、隠しておこうという鈴鹿と、告知すべきだという東吉とが対立して話がおかしくなる。東吉には康介という弟がいて、彼の引きで同じ会社の係長をしているが、女性関係のもつれからか、会社の金を使い込んでいると打ち明けられる。身内の問題は身内で解決しようと100万円のうち70万円を工面し、残りの30万円を渡すという手はずになっていたのだが、突然、東吉が失踪する。

 東吉の娘の京子(岡田茉利子)とその夫の小滝(池部良)、夏子(有馬稲子)、晴子(司葉子)たちは手分けして東吉の行方を探る。彼らのもとに河野美枝(岩下志麻)という謎の女性が登場し、東吉が隠していた秘密が明らかになり始める。そして、東吉は…。

 原作が野田東梧と小津、脚本が白坂依志夫と渋谷ということで、どこまでが小津の原案で、どこからが渋谷の脚色なのか、想像する楽しみがあるといえばそれまでだが、作風の違う作家の個性が接木されているので、見ていて当惑するところがある。とくに姿をくらました東吉の行方を描く場面を中心として、ところどころにちりばめられたドタバタ場面やブラック・ユーモアは渋谷のものだろうが、小津も若いころはいろいろな冒険をしていたので、一概に小津の原案を渋谷が勝手にいじったとはいいがたいところがある。小津の演出の特徴は熟知していたであろう渋谷が、映画の監督に当たってもかなり自分の個性をおさえようとしたことは容易に想像できるのだが、遠慮しないで自分の個性を出した方が小津も喜んだのではないかと勝手に推測してしまう。

 豪華な配役の中で、まだまだ若かった乙羽信子の演技が光る。そういえば、岡田茉利子の第1回プロデュース作品の『熱愛者』では、乙羽は岡田の姉の役であった。と、書いてきて、桑野みゆきはどこに出ているのだという話になるが、それは見てのお楽しみということにしておこう。この映画、12日まで上映しているから、そのつもりになれば見ることができるはずである。

 『戸田家の兄妹』は財界の大物であった戸田家の当主が急死し、邸宅を手放すことになって、未亡人と三女(高峰三枝子)が行き場を失い、長男や長女の家に寄寓することになるが、うまくいかず・・・という展開の物語で、父親の生前はだらしなかったが、死んでから心がけを改めて天津で仕事に打ち込むようになった次男(佐分利信)と三女の兄妹愛が物語の芯になっている。佐分利信にしても、高峰三枝子にしても、年をとってからの演技には結構接してきたのだが、こうして若い時の姿を見ると、別の感動を覚えるから不思議なものである。昭和10年代の裕福な人たちの暮らしぶりがどのようなものであったか、今となっては想像がしにくいものであるだけに、その姿を描いているという点でも興味深い作品であった。桑野通子は高峰の友人役で登場するだけなのだが、結構重要な役割を演じているので、そのあたりを注意してみるとよいのではないかと思う。
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