悪魔の美しさ

2月13日(水)晴れ

 キネカ大森で『悪魔の美しさ』、その後横浜ブルク13(シアター4)で『ムーンライズ・キングダム」を見る。まず、『悪魔の美しさ』について書くことにする。

 無声映画時代からフランスを代表する映画監督であったルネ・クレール(1898-1981)は第二次世界大戦中英国、その後アメリカで活動していたが、戦後フランスに戻って無声映画時代の映画製作の現場を描いた喜劇『沈黙は金』を作り、続いてこの『悪魔の美しさ』をフランス・イタリア合作で演出した。主としてイタリアで撮影されたそうである。

 ヨーロッパのさる公国。大学教授(学部長)であるファウストは長年研究一筋に禁欲的な生活を続け、同僚から尊敬を集めているが、研究がもう一歩のところで完成しないこと、自分の体力が衰えていることに悩みを感じている。人々を幸福にするために自分の研究を完成させたい、そのためには…と悩む彼に悪魔メフィストフェレスの声が忍び寄る。

 ルネ・クレールは劇作家であるアルマン・サルクルウの協力を得て素材であるファウスト伝説から自由に想像の翼を羽ばたかせる。メフィストフェレスの力で若返ってアンリ青年となったファウストは美しいジプシー娘マルゲリットと恋に落ちるが、ファウスト殺人の容疑で逮捕され、裁判にかけられる。危ういところを今度はファウストの姿になったメフィストフェレスによって救われる。しかし、自由の身にはなったものの生活は苦しく、その一方で一目見た公妃に恋してしまう。その夫である公爵は(字幕では王子になっていたが、この場合のプランスは公爵である)国家の財政を豊かにするためにファウスト(実はメフィストである)に錬金術を依頼する。メフィストはアンリ青年を抱き込んで錬金術に成功し、アンリ青年の公妃への愛を利用して彼の魂を売る契約書の署名を得ることに成功する。

 科学の力が人々を幸福にすると信じてファウスト→アンリは研究を進めたのだが、錬金術による繁栄は砂上の楼閣を築くものであるかもしれず、彼の発明する大量破壊兵器は平和を実現するどころか街並みを廃墟にしてしまうことが予言される。アンリ青年は悪魔のたくらみから逃れようとし、公妃ではなくて、自分が本当に愛しているのはマルゲリットであることに気付く。マルゲリットも彼の愛を信じるのだが、悪魔は着々と罠を張りめぐらす。

 きわめて丁寧な作り方をされている映画であり、明暗の対照や特殊撮影により効果を上げている。出演者の演技が演劇的で、古典的な風格を感じる半面、新鮮味に乏しいのは製作の背景を考慮すれば当然かもしれない。アンリが発明する兵器のデザインが現代の最新兵器よりもジュール・ヴェルヌの世界に近いのはご愛嬌であろうが、科学技術の発展に対するクレールの懐疑は戦前の『自由を我らに』よりも強くなっているように思われる。戦後のクレールの作品にはノスタルジックな傾向が強くなっているとは、しばしば指摘される点であるが、第二次世界大戦を経ての彼の文明観の変化がそうさせているのであろう。その一方で郷愁の対象となる時代も場所も特定されない胡散臭さにも気づかされる。

 ファウスト伝説を素材とする作品は多いが、マーローの『フォースタス博士』は悲劇であり、ゲーテの『ファウスト』はあの世で決着がつくのに対し、この作品ではこの世で決着がつく。多少の文句を言うことはできるとはいえ、クレールが人間性に対して寄せた信頼感を物語の展開から読みとるべきであろう。ミシェル・シモンのどこか間が抜けた悪魔ぶりがおかしい。 
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