『太平記』(18)

11月23日(日)晴れ

 笠置山に皇居を置いて、あくまでも鎌倉幕府と戦う姿勢を示された後醍醐天皇であったが、元弘元年の8月29日未明、六波羅方の陶山義孝と小見山次郎が決死の覚悟で夜討ちをかけたことで、笠置は落城し、脱出して楠正成の立てこもる金剛山を目指された天皇は途中でとらえられ、六波羅に幽閉された。三種の神器を渡された皇太子量仁親王が即位され(光厳天皇)、10月13日に内裏に入られた。

 近畿地方における宮方の抵抗の執拗さに手を焼いて、鎌倉幕府は大軍を派遣していたが、その大軍が近江の国に入る前に、笠置城が落城してしまう。こうなった以上は、まだまだ抵抗を続けている楠正成を征討しようと、大軍は1人も京都には入らず、直接彼が立てこもっている赤坂城に向かう。近くまで軍を進めて、城の様子を見れば、にわか作りらしく、それほど堅い守りを凝らしているようには見えない。これならばすぐに攻略できそうだと、30万人の軍勢が勇んでわれ先に攻めかかる。

 「正成は、元来(もとより)策(はかりごと)を帷幕の内に運(めぐら)して、勝つことを千里の外に決せんこと、おそらくは陳平、張良が肺肝の間より流出せるごときの者なりければ」(167ページ、正成はもとより策を陣内でめぐらし、勝利を千里も離れた戦場で決すること、漢の高祖の臣で軍略に秀でていた陳平、張良の胸の奥から生まれ出たような武士であったので)、城中に優れた弓の射手を200人余り揃えて待機させ、弟の七郎と一族の和田五郎とに300余騎の軍勢を分けて、他の山に配置していた。寄せ手の軍勢はそのような作戦を全く知らずに、ひたすら力攻めにして城を攻略しようと、ただそのことだけを考えて攻め寄せるが、待ち構えていた射手たちの矢の雨に1,000人を超える戦死者、負傷者を出してしまう。

 思わぬ苦戦にいったん後退した幕府軍は、こうなった以上遠巻きに包囲して長期戦に持ち込む以外の策はないとそれぞれの陣を設けてその中に引きこもろうとするが、そこへ楠七郎と和田五郎の軍勢が攻め寄せる。30万人の軍勢が土地の様子を知り尽くした300人の奇襲に翻弄される。さらに城の中から矢の雨が降り注ぐ。幕府軍は慌てて後退する。「その道五十町が間に、馬、物具を捨てたる事、足の踏み所もなければ、東条一郡(大阪府富田林市内の地)の者ども、俄かに徳付いてぞ(財産を得る)見えたりける」(169ページ)。ユーモアを交えながら、正成の智略が小勢で大軍を翻弄する様子を描きだす。

 後退を余儀なくされた東国勢は初戦に敗北したためにすぐに次の戦いに取り掛かろうとはせずに、地理をよく知っている畿内のものを先導にして、背後を襲われないように民家を焼き払ってから攻略しようなどと議論をしていたが、被害の大きかった東国の兵の中には血気にはやるものがいて、再度城に攻め寄せようとする。

 赤坂城はそれほどの要害の地ではないし、防御を厳しく固めている様子もなく、また城中から何の反応もないので大軍は勢いづいて攻め寄せるが、城の四方の塀に兵士たちが取りつき、上り始めると、時を見計らってもともと二重に造られている兵の外側の方のつり縄が切って落とされ、兵に取り付いていた兵士たちが下敷きになってみ動きができなくなったところを、大木や大石が投げかけられ、またもや惨敗を喫するのであった。

 二度の攻撃がともに失敗に終わって、東国勢はしばらくの間遠巻きに城を包囲しているだけだったが、大軍が小さな城を攻めあぐねているのも恰好が悪い、何とかしようと、今度は小型の楯を用意して矢を防ぐようにして、城の塀のところまで近づき、すぐには昇ろうとせずに熊手で兵を引き倒そうとしているところに、上から大きな柄杓で熱湯がかけられる。寄せ手は楯も、熊手も捨てて逃げ出す。こうして、3度目の攻撃も失敗に終わり、あとは包囲して兵糧攻めにする以外に策はないということになる。そうなってしまうと、城内の兵士たちの気力が衰え始めるのであった。

 相手が動けば、正成の智略はそれ以上の動きを考え出す。それでは相手が動くなくなった時にどのように局面を打開するか、そこではまた別の智略が発揮されるはずである。笠置山の攻防でも明らかになったことであるが、もともと山のふもとの方から山上に攻め寄せていくのは難しいし、土地の様子にどこまで精通しているかも戦い方に影響してくる。関東勢は兵力に勝るが、これらの点では劣っているので、兵力の差があっても慎重に攻めるべきだったのである。しかも正成は地方の武士ではあるが、魚鱗懸かりなどという戦術を用いたりして、兵法に通じていることもわかる。その一方で、自分の頭で考えた戦術も使うので、攻め寄せる側としても対応が難しい。さて、戦局はどのように推移していくのか、それはまた次回。
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