綿抜豊昭『戦国武将と連歌師 乱世のインテリジェンス』

11月20日(木)曇り後雨

 綿抜豊昭『戦国武将と連歌師 乱世のインテリジェンス』(平凡社新書)を読み終える。

 「かつて『連歌師』という『職人』がいた。和歌・連歌を詠み、時にそれが記される紀行文を著すこともある。また自らが実作をするだけではなく、他者を指導し、連歌会をしきるとともに、和歌・連歌について論じ、関連して『源氏物語』などの物語についても語り、論書などを著したものもいる」(7ページ)とこの書物は書きだされている。連歌師は職人であり、芸能人であり、見たところ僧形ではあるが、世俗のさまざまな事柄にかかわる、得体のしれない、怪しげな存在であった。彼らが最も活躍したのが戦国時代であるというから、ますます怪しげである。

 「しかし、彼らはその『あやしさ』ゆえに実に魅力的である。『連歌師』についての知識があると戦国時代の歴史がより面白くなる」(同上)と著者は言う。連歌師には「表稼業」としての文学的活動のほかに、「裏稼業」と称すべき仕事があった。連歌には武士の間の意思の疎通を図り団結を固める効用があり、連歌師たちは諸国間をめぐり、武将間の交流や情報の伝達、意見のとりまとめにおいて役割を演じ、その一方で困窮する公家のサイドビジネスの口利きをするなどして、戦国の世に欠かせない存在となっていたのである。この書物は、そのような連歌師の戦国時代(安土桃山時代と、江戸時代の初期を含む)における活躍の諸相を取り上げている。著者は大衆向けの歴史小説についての深い造詣を生かしながら、面白おかしく、その様相を語っている。学術的な価値についてはやや疑問があるが、とにかく面白いことは確かである。以下、とくに面白いと思った個所について簡単に紹介する。

 文藝の道に秀でていることで戦乱の世を生き延びた武将であるといってもよい細川幽斎は連歌についても上手であったが、息子である忠興の妻の父・明智光秀について「連歌でルール違反があると軽々しく直す」(184ページ)と批判したという。「光秀は、ルールにのっとってきちんとしているのが好きであり、またゆとりのない人であったのかもしれない。現代でも自分の中の圧倒的な<正義>をもって他者の<愚行>を裁き続ける人がいる」(同上)というのは、著者の世相に対する批判とも受け取れるが、その光秀が天生10年(1582年)5月に毛利征伐のための「戦勝祈願」として山城国愛宕山威徳院で行ったいわゆる「愛宕百韻」で自らが詠んだ発句
ときは今雨が下(した)しる五月かな
この句が「本能寺の変」の直前に読まれたものであることから、神意はその戦勝祈願にあったとする解釈が江戸時代になされる。たとえば石川丈山の『丈山紀談』では「明智の本姓は土岐氏なので、『時』と『土岐』と読みを通わして、天下を取るの意味を含めた」(185ページ)と解釈しているという。この席には、有名な連歌師の里村紹巴が加わっていて、豊臣秀吉から「天が下知るというときは天下を奪うという心が現われている。それがわからなかったのか」(186ページ)と詰問されたという話も伝えられている。著者はこの発句をめぐる様々な解釈を紹介して「連歌はいろいろなことを詠む。したがって解釈の仕方によっては、自然や人事のことの多くと結びつけることができる句が見つかる。その多様性のある解釈が、連歌を『読む』面白みの一つであろう」(196ページ)とだけ論じている。それはともかく、歴史小説を書こうとする人にとっては必読の箇所であろう。幽斎にしても、紹巴にしても(スケールの違いはあるが)戦国の世をしたたかに生き延びている。その延命術と連歌のかかわりに興味がわく。

 その他の有名人・無名人たちの和歌・連歌にかかわる逸話を拾うと、『和歌奇妙談』などに記される、安倍貞任の弟宗任が前九年の役でとらえられ、みやこに連行された際に公家たちからその無教養ぶりを笑ってやろうと梅の花を示されたところ、
あづまには梅花といふも梅の花大宮人はいかにいふらん
(118ページ)と詠じたので、公家たちが白けて帰ってしまったという逸話に続けて、安倍晋三氏はこの安倍宗任の子孫だと言われる(119ページ)と記しているが、何か裏付けになる史料があるのだろうか。

 もう少し新しいところでは家の伝統を重んじて正月の七草の行事として連歌を催した伊達政宗や、連歌を詠むことが嫌いではあったが、読んで勉強していた(政務に役立てていた)徳川家康、さらに連歌を趣味と実益の両面でこのんだ黒田如水らの戦国武将(伊達家、武田家、今川家などのもっと古い話も満載である)についての興味深い逸話が記されている。その一方で宗祇が旅の連歌師と言う評価を得た経緯について述べるなど、文芸としての連歌についても一通りの知識を与えてくれる。この書物だけですべてを知ることはできないが、面白く読めるし、連歌の全容を窺うために必要な見通しをつけてくれる書物だと言えよう。
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