ジョー・ウォルトン『図書室の魔法』

10月23日(木)雨

 10月22日にジョー・ウォルトン『図書室の魔法 上』(創元SF文庫)を、23日に『図書室の魔法 下』(創元SF文庫)を読み終えた。SF小説はあまり読まないのだが、なんとなく題名に惹かれて手に取ってみた。読み始めてから次第に読み進むペースが速くなり、とうとう最後まで読んでしまった。

 1979年から1980年にかけて、当時15歳だった少女モリが鏡文字で書いた日記という形をとっている。南ウェールズに住んでいた彼女は、魔女である母親の邪悪な計画を阻止しようと、双子の妹であるモルと2人の知っている魔法を使って対抗するが、モルは死に、彼女自身も足に重傷を負って障害者になっていまう。母のもとを逃げ出した彼女は、幼いころに母と別れたイングランドに住む実父に引き取られる。地元の図書館のSFやファンタジーを読みつくすほど本好きの彼女は、父親のダニエルが大のSFファンだと知って親近感を抱くが、彼の姉である3人の伯母たちの意向で彼女たちの母校であるアーリングファーストという寄宿制の女子校に転入させられる。

 「解説」で堺三保はこの本の原題Among othersは「見知らぬ他人の中に放り込まれたモリの孤独を表していると考えるべきだろう」(270ページ)と記している。足が不自由なのでスポーツができず、ウェールズ訛りが抜けない彼女は他の生徒たちからのけ者にされる。わずかに友達として期待できそうな存在がユダヤ人のシャロンと、アイルランド人のディアドリの2人だけである。成績優秀で空気を読むことに長けている彼女はそれでも何とか学校生活を続けていく。あまり生徒が利用しない学校図書館を利用するだけでなく、近隣の町オズウェストリの図書館も利用し、さらに図書館相互貸借制度まで利用して本を読みふけり(父親の本も読むし、自分で本屋で本を買ったりもする)、その一方で母から身を守るために魔法の力を借りたり、フェアリーを捜したりして生きていく。

 学校図書館の司書であるミス・キャロルが彼女をかばってくれ、さらに町の図書館の司書であるグレッグからSFの読書会への参加を誘われて、彼女の世界は学校の外へ次第に広がっていく。彼女はそこでやっと、共通の話題をもつ仲間と出会う。特に少し年長の素敵な青年であるウィムに惹かれ、ウィムも彼女に魅力を感じているようである。しかし、執拗に付きまとって離れない母親の悪いが彼女を悩ませ、苦しめる…。

 物語は彼女の周辺で起きる幻想的な出来事と、彼女が読んだ小説や哲学書の感想を織り込んで展開するのだが、学校での仲間外れや口頭でのいじめ、最近日本でつかわれている言葉を使えば「学校内カースト」の問題なども描きこまれている。モリは授業料の高い私立の寄宿生学校に在学しているのだが、彼女が読書会で知り合う同世代の仲間は公営の総合制学校に通っている。地方と地域、社会階級によって使う言葉が違う英国の現実がこの作品の中にも影を落としている。英語の方言の問題だけでなく、英語とウェールズ語の問題も作品の中で取り上げられているし、モリの父方の祖父であるサムはユダヤ人であるという設定になっている。

 なお、訳題は『図書室の魔法』であるが、作品に登場するのは図書館であって、図書室ではない(モリの父親のダニエルは書斎libraryをもっているが、この場所は物語の主要な舞台ではない)。<図書室の魔法>というと大邸宅の図書室で何やら怪しげな術を使って・・・というような場面を想像するのだが、この物語は屋外の場面も多く、モリは魔法を使うことを再三ためらっているのであって、物語の内容に即して適切なものであるかということには疑問がある。魔法ということになると、バーネットの『秘密の園』が連想される。この物語では多くの書物への言及があるが、この作品への言及がないのが気になるところである。もう1つ、こちらは作品中に登場するシェイクスピアの『テンペスト』も念頭に置いておく方がよいかもしれない。とにかく多くのSF作品への言及があって目がくらむのだが、興味がない読者でも何とかついていけるような書き方がされている。

 作者であるジョー・ウォルトンは現在カナダに住んでいるそうだが、ウェールズ生まれの女性で、モリの物語は作者自身の体験をある程度反映したものであるのかもしれない。SFに興味がなくても、読書好き、あるいは英国の地方の暮らしに興味がある人であれば楽しく読めるはずである。堺三保による解説は、この物語をどのようにして読むかの可能性をいくつか示して、その選択を読者に示しているが、読書が人生に及ぼす影響を肯定的に描くという物語の骨格に対する懐疑的あるいは否定的な選択肢は示していないはずである。書物と読書の素晴らしさを語りあげる素晴らしい場面が最後の方に出てくるが、これは読んでのお楽しみということにしておこう。 
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