自由学校

10月22日(水)雨

 シネマヴェーラ渋谷で「日本のオジサマⅡ 佐分利信の世界」の特集上映から『自由学校』(1951 松竹 渋谷実監督)と『春を待つ人々』(1959 松竹 中村登監督)を見た。当初の予定では、『春を待つ人々』ではなく『吹雪と共に消えゆきぬ』(1959 歌舞伎座 木村恵吾監督)監督が上映されることになっていたが、差し替えられていた。おそらく『吹雪と共に消えゆきぬ』のプリントの状態が悪く、上映に耐えないという理由からであろう(確認しなかった)。『吹雪と共に消えゆきぬ』はジュリアン・デュヴィヴィエの『舞踏会の手帖』を下敷きにして劇作家の田中澄江が脚本を書いた作品なので、ちょっと興味はあって、見ることができなかったのは残念である。『春を待つ人々』はオリジナル脚本による正月映画で、追放解除になったので政界に復帰しようとして参議院選挙に立候補する政治家と、その子どもたちのそれぞれの家庭・結婚問題を描いている。佐分利信が老政治家に扮し、その長女の娘婿を佐田啓二、三女を有馬稲子、その元恋人を高橋貞二、長男を川津祐介、その恋人を岡田茉利子、政治家が別の女性(水戸光子)との間に儲けた娘を高千穂ひづる、息子を山本豊三、その恋人を桑野みゆき、政治家の世話を焼きながら妻の座を狙う料亭の女将を沢村貞子・・・という豪華配役陣が魅力で、ストーリーは雑だが、うるさいことを言わずにこの豪華な顔ぶれを見ていればよいという作品である。それで、最近、興味をっもっている監督である渋谷実の『自由学校』について主に書くことにする。

 『自由学校』は当時の人気作家獅子文六の小説の映画化で、松竹と大映が競作し、それぞれの作品が同じ日に封切られるという異例の事態の中で公開された。松竹版の脚本は斎藤良輔、大映版は新藤兼人が担当、大映版の監督は吉村公三郎、松竹版が佐分利信、高峰三枝子、淡島千景、佐田啓二を主な出演者とするのに対し、大映版は小野文春、木暮実千代、京マチ子、大泉滉という配役であった。今回観たのは松竹版だが、大映版もいつかは観てみたい。

 サラリーマンの南村五百助(佐分利信)は「自由がほしい」と会社を辞め、家でごろごろしていようと思ったが、才色兼備、働き者の妻の駒子(高峰三枝子)にその怠け者ぶりを叱責され、売り言葉に買い言葉で家出するが、公園のベンチで寝ているときに財布を盗まれ、無一文になってしまい、モク拾いの男と知り合ったことからルンペンの仲間に身を投じ、橋の下の小屋で暮らすことになる。一方、駒子は叔父夫婦(三津田健・田村秋子)のところに相談に出かけた帰りになよなよした大学生の堀隆文(佐田啓二)と、その許嫁で風俗の先端を行く生活ぶりの藤村ユリ(淡島千景)と知り合う。隆文は自分は年上の女性にあこがれると駒子を追いかけはじめ、それをユリがけしかける一方で、他にも駒子に言い寄る男たちが現われて騒々しいことになる。

 渋谷実監督は一方で同時代の様々な風俗を描きながら、他方で男と女のそれぞれの愚かしさをとらえ、時々スラップスティック風の場面を取り入れてこの喜劇を盛り上げている。駒子が泥棒猫を捕まえるように五百助の首根っこをもって持ち上げる場面(そのくせ、本物の猫についてはそういうことをしない)、ユリが隆文を馬跳びする場面、その後、暴漢に襲われた隆文が今度は暴漢を馬跳びして逃げる場面など、思わず笑ってしまう場面である。その一方で、法律学者である(これが後になって意味をもってくる)駒子の叔父が、滝川事件や天皇機関説事件による言論弾圧の中で仲間たちと馬鹿囃子を始めて、それが続いているという話などは世相の底流にあるものへの作者(それが獅子文六のものか、渋谷実のものかは別にして)の警戒心を語っていると受け取ることもできる。

 ただ、気になったのははじめの方で駒子が1日の小遣いとして300円を渡すところで、この時期ラーメンが25円とか30円で食べられたはずだから、300円の小遣いというのはかなりの高額である。そういう夫婦が郊外の農家の離れを借りて住んでいるというのも何か奇妙な感じがある。ラーメンと書いて思い出したのだが、湘南海岸でユリと隆文が横浜の中華街でワンタンをたべるという話をしている(結局、駒子にごちそうしてもらう)のが、まだまだ日本が貧しかった時代の様相を描きだしていて面白かった。

 とはいうものの、とりあえずは五百助の規格外のグータラぶりの行方を追っていくのが正しい、また楽しい観方であろう。古いなぁと思う側面と、時代を突き抜けたものを感じさせる側面とを併せもった、何度も見直してみたい魅力を感じさせる作品である。 
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