パット・マガー『七人のおば』

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 パット・マガー『七人のおば』(創元推理文庫)を読み終える。1947年に発表されたThe Seven Deadly Sistersの翻訳。1949年の延原謙による新樹社ぶらっく選書版では『怖るべき娘達』と訳されていたそうである。その後長く「幻の名作」になっていたが、1986年に大村美根子により標記の題名により創元推理文庫から刊行され、現在まで版を重ねている。ちなみに、私の手もとにあるのは奥付に22版とあるが、初版22刷とする方が正しいのではなかろうか。どちらにしても、よく読まれていることは確かである。

 英国人と結婚して大西洋を渡り、親族と離れて暮らしているサリーはニューヨークの友人からの手紙で、伯母が夫を毒殺し、自殺したと知らされた。手紙には具体的な人名が記されておらず、彼女には7人のおばがいるのである。「あたしの家族は変なのよ。・・・おばたちについて、一緒に住んでる間に見聞きした事柄について、あれこれと思い出してみたわ。どう考えてみても、彼女たちは一人残らず殺人を犯す素質を備えてる。身内の誰かが人殺しだったなんて。…しかも、自分が人殺しの家系に属してるとなると」(16ページ)とサリーは思い悩む。夫のピーターは、おばたちといきさつを詳しく話してくれれば、犯人と被害者の見当はつくだろうと請け合う。サリーは、カリフォルニア暮らしていた自分が両親が交通事故で死んだために、ニューヨークに住むおばのところに引き取られることになってからの経緯を語り始める。

 サリーを引き取ったクララおばの夫のフランクはウォール街の大物で、妻の父母が死んだあと妻の6人の妹を引き取り、大学まで進学させてきた(いかにアメリカとは言え、1930年代の設定だから、これがどんなにすごいことかはわかるだろう。サリーの父親は、クララの弟で、兄弟姉妹の中でのただ1人の男性であった)。サリーがクララに引き取られたとき、6人のうち2人は既に結婚していたが、幸福な家庭を築いているとはいいがたい状態であった。とはいうものの、結婚が女性の唯一の人生目標だと信じ、世間体を重んじるクララは残った妹たちを結婚させようとあれこれ画策しつづける。その結果がどんな混乱を巻き起こそうと、さらに策を講じて、それが裏目に出ても動じない。サリーが言うように、それぞれのおばたちにそれぞれの悲劇の種がまかれていくことになる。

 パット(パトリシア)・マガー(1917-1985)はアメリカの女流作家で、従来の推理小説の手法とは大きく異なる斬新な作品を書き続けたことで知られる。この作品は彼女の第2作で、第1作の『被害者を捜せ!』では犯人あてという推理小説の常套をひねって、被害者探しという機軸を打ち出したのに続き、探偵役が犯人と被害者の両方を探し出すという物語を展開させている。米国で起きた事件が、英国にいるサリーの回想を通して語られていくという(北村薫の「解説」の言葉を借りれば)「額縁つきの絵」の手法を用いていることも特色であろう。

 こうした斬新さのためか、1951年に「当時の若手新鋭推理作家のほとんどを網羅した、画期的な専門雑誌」((344ページ)であった<鬼>誌のベスト・テンで7位に選ばれている。
1位 フィルポッツ『赤毛のレッドメーンズ』 2位 アイリッシュ『幻の女』 3位 ヴァン・ダイン『グリーン家殺人事件』 4位 ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』 5位 ドイル『バスカヴィル家の犬』 6位 クイーン『Yの悲劇』 7位 マガー『怖るべき娘達』 8位 クリスティー『アクロイド殺害事件』 9位 クロフツ『樽』 ルルー『黄色い部屋の謎』 フィルポッツ『闇からの声』 10位 ルブラン『813』 シムノン『男の首』 
これも北村の言葉を借りると「まさに同時代の作品が、古典的名作に伍して選ばれたのである」(同上)。

 このような一部における高い評価にもかかわらず、マガーの作品は商業的には成功を収めず、そのことが『怖るべき娘達』⇒『七人のおば』をはじめとする彼女の作品の日本での刊行にも反映してきたと思われる。そして、商業的な不人気の原因は、この作品の場合、アメリカの伝統的な社会が大事にしてきた家族の価値を批判するとも受け取られる(問題はクララの妹たちの性格や願望を考えずに強引に結婚を迫るやり方にあるのだが、結果として結婚や家族に作者が懐疑的になっていると受け取られても仕方がない)物語の展開にあるのではなかろうか。一般に英米のミステリーは犯罪の原因を先天的なもの(犯罪者の血統)に求める傾向が強いが、この作品はそれを否定している点もこのことと関連して注目される点である。

 7人の姉妹の1人1人の個性と行動が詳しく描きこまれ、それぞれが自分の欠点には目をつむりながら、他の姉妹については結構的確な評価を下しているのが面白い。正しい意見を述べても、意見を述べた人間の平素の行動によってそれが正しく伝わらなくなっている環境というのは、確かに恐るべきものである。丁寧に読み返すことによって、さらに魅力が増していく種類の作品ではないかと思う。
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