諸星裕 鈴木典比古『弱肉強食の大学論 生き残る大学、消える大学』(11)

10月5日(日)雨、台風が接近している。大事に至らなければいいのだが…。

 第5章「キーワードは『多様性』と『リベラルアーツ』」では、著者の1人である鈴木さんが学長兼理事長である秋田県の国際教養大学の教育の特色と、それがこれまで上げてきた成果が誇示されている。鈴木さんは言う:「AIUは開学以来10年ほどですが、これほど早くこういう実績を上げられたのは、インターナショナル・リベラルアーツと、この「勉強をせざるを得ない」環境の成果だと考えています」(206ページ)。これを受けて、諸星さんは「こうした小さなリベラルアーツの大学が日本でもっともっと多くなってほしい・・・日本の大学の中で、実は7割以上の大学が1000人ほどか、それ以下の規模なんです。そういうところが、AIUのような小ささを生かした丁寧な教育をおやりになればいいのになあと思っているんです」(同上)という。要はやる気の問題だと言わんばかりであるが、問題はそれだけではない。

 鈴木さんは、アメリカのリベラルアーツ・カレッジの例を引き合いに出して、そういう大学がもっと増えればいいという。これは確かにそのとおりであるが、日本でなぜそうなっていないのかについてはやる気以前にもっと重要な問題があるのではないか。国際教養大学は、設置形態としては公立、教育内容としてはリベラルアーツ・カレッジとアメリカの一部の大学のいいとこどりをしているのだが、日本の小規模大学のかなりの部分が私立であって、丁寧な教育を実践していくための財政的な手立てがないというのが実情ではないか。このあたり、国際教養大学の大学財政についての実情をはっきり示して、他の大学の参考にするくらいでないと、ほかの大学が追随するということは起きないのではないかと思う。

 とにかく、鈴木さんの頭の中にはある種の固定観念があって、それ以外のイメージを寄せ付けないところがある。「全寮制で、24時間、生活自体がリベラルアーツなんです」((207ページ)。確かに、それは多くの可能性を秘めた高等教育の在り方ではあるが、それ以外のあり方を排除してしまっては困るのである。

 さらに、多様な人材を大学に集めるために、入学者の選考方法を変えていくことが提言されている。従来型の一発入試のために見落とされてしまう才能があるのではないかという議論は説得力があるが、できるだけ多様な人材を採用するというやり方が、新たな不公平を生みださないとは言えない。私が昔勤務していた学校で、ある先生が提起した問題であるが、旧制の東京物理学校(現在の東京理科大学の前身)は入試は易しいが卒業するのは難しいという学校であり、横浜高等工業(現在の横浜国大の工学部の前身)は入試は難しいが、入った以上それなりの実力があると認めて、試験を行わず全員を卒業させたという。現実に両方の卒業生を知っているのであるが、自分に合ったやり方の学校を選ぶことが大切で、結果としてみるとどちらの卒業生も有為な人材が多かったといえるのである。(どっちも理科系の学校であるというところが気になるのだけれども…) 

 入学者の選考を人物本位で行うという主張には賛成なのだが、人間だれでも欠点はあるので、そのあたりをどのように配慮するかが難しい。それに現実問題として、どこをとってもあまり取り柄がないような学生でも入学させなければ経営が成り立たない大学も少なくないのである。そのことは2人の著者も承知の上で、「中堅労働者の育成」というようなことを言っていたのに、この章になって急に調子が変わるのは読者に不信感を抱かせるだけである。最後に、企業の側にも採用のやり方の見直しを求めているが、インターンシップの活用など大学教育と企業での活動の溝を埋めていく努力を拡大していかないと単なる精神論だけで終わってしまう恐れがある。

 日本の中小(あるいは弱小)大学はリベラルアーツに主眼を置く、教育重視の大学として再生を図るべきであるというのがこの書物全体を通じて言われていることではないかと思うが、そうするためには財政的な裏付けが必要で、その点については何も触れられていないのが気になるところである。この書物では、アメリカの大学から学ぶべき点について力説されているが、すでに述べたようにアメリカ以外で優れた高等教育を展開させているオランダやスイスの事例からも学ぶべきものがあるかもしれず、さらに最近のアジア諸国の大学の躍進の原因、それと対照的な日本の大学の停滞の原因についても考えていく必要があるだろう。これらの点については、またこの書物についての論評を離れて、別の機会に論じるべきであるのかもしれない。1人1人の読者が大学についての様々な情報(特に数字)を集めて、それをもとにこの書物の議論を検討してくことは、かなり有益な作業になるのではないかと思う。その結果は必ずしも、2人の著者の結論に同意することになるとは限らないだろう。 
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