ダンテ・アリギエリ『神曲 地獄篇』(9)

9月15日(月)曇り

 ウェルギリウスに導かれて異界を遍歴するダンテは怒りと怠惰の罪を犯した人々の霊が捕えられている地獄の第5圏の中に建つ内城ディース城の入り口で前進を遮られる。先の見えない事態を恐れる気持ちでダンテの顔色は蒼くなり、怒りによってウェルギリウスの顔色は赤くなった。ウェルギリウスは、彼らの旅路がさえぎられるはずはないといいながら、道を切り開くと約束されていた存在の到着が遅いことをいぶかる。彼の言葉をききながら、ダンテは恐怖におびえる。彼の旅の初めに約束されていたことが真実であったのかさえも疑わしく思い始める。

 ウェルギリウスはダンテを励ます言葉をかけるが、城壁の上にはギリシャ・ローマ神話に登場する復讐の女神エリーニュス、見たものを石に変じる妖怪メドゥーサが出現して、ダンテの地上への帰還を阻もうとする。ウェルギリウスによって守られながらも、彼の遍歴をめぐる神意を疑い始めていたダンテは、
おお、健全なる知性をお持ちの諸君、
奇怪な詩句の覆いの下に隠されている
深い教えを探りたまえ。
(144ページ)と謎のような声を洩らす。

だが、すでに、濁った波の上を轟きわたったのは、
破壊の一撃の音。恐怖に満ち、
その衝撃に両岸が震え、

まるで敵対する熱の衝突から生じる凄まじい
暴風が引き起こした音さながらだった。
森を引き裂き、抵抗もなく

木を折り、引き倒し、運び去り、
先頭に砂塵を巻き上げながらすべてを制圧して進み、
獣どもや牧人たちを追い払うような。
(144ページ)姿で現れたのは神の使いであった(それがどのような存在であったかについては、ダンテは記さず、学者の中で意見は分かれている。) 城を通る道は開かれ、「他のことが気にかかって離れない」(148ページ)様子で、使いは帰っていった。

・・・
私達は都市に向かって歩を進めた。
あの聖なる言葉の後では何の心配もいらなかった。

私達は戦うことなく内部へと入った。
(148ページ)
 城の内部には墓地が広がり、蓋が完全には締め切られていない石棺が並んでいた。これらの石棺には生前に火刑に処せられるはずであった異端者たちの魂が収められており、
・・・石棺それぞれに炎が燃え広がり、
鍛冶の技でも鉄を焼くのにこれ以上はないほど、
どれもみな、ひどくも丸ごと焼かれていたからだ、
(149ページ)

 ウェルギリウスはダンテに告げる:
・・・「ここには異端の教祖どもが
追随者とともにいる。あらゆる分派を含み、あまりに数多く、
墓はお前が信じられぬほどの人数を収めている。

ここでは同門の者同士が同じ墓に埋められ、
墓石の持つ熱には強弱がある」。
(150ページ) 彼らがみたのは信じられないほどの人数の異端者たちであるが、それは教会の腐敗のために信仰を離れ、正統教義を信じなくなった多数の民衆や市民の存在への認識があると原さんは注記している。教会権力との戦いに敗れて異端として処断された多くの民衆や市民を地獄の魂として描かずに、もっと別の描き方をするやり方もあったのであろうという疑問をもつ方も少なくないのではなかろうか。正統と異端の問題はヨーロッパ中世の多くの人々にとって重大な問題ではあったが、果たして、それが彼らの信じる神の偉大さにとってどれほどの重要性をもつ問題であったのかを、ゆっくり考え直す必要もあったのではないか。自分の思想の正統性を強調するだけでなく、より多様な信仰の在り方、正義についての見方を許容する姿勢があってもよかったのではなかろうかと思うのである。
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