諸星裕 鈴木典比古『弱肉強食の大学論 生き残る大学、消える大学』(4)

9月11日(木)曇り、雨が降りそうで降らない。大雨で被害が出ている地方もあるという。大事に至らなければよいのだが…

 この書物は、長年大学教育に携わってきた2人の対談者の経験を踏まえて、大学改革を論じる内容であるが、2人の経験は日本とアメリカ・カナダにおけるものであって、基本的な論旨は日本の大学もアメリカ・カナダに倣う方向で改革を進めるべきだということである。
 これまでの議論で中心的に論じられてきたのは、大学がミッションをもち、それを対外的に明らかにすべきだということである。ミッションとは大学が社会に対して果たすべき役割であり、大学の存在意義である。ここで問題になるのは、大規模な総合大学の場合、統一的なミッションを掲げることが可能になるかということである。日本人の一般的な大学観として、大規模な大学がいい大学であるという認識があるだけに、この問題は避けて通るわけにはいくまい。
 それから、これは後で問題にするつもりであるが、日本の大学がアメリカ・カナダに倣う方向で改革を進めるべきかということについても慎重な検討が必要である。各種の国際的な大学ランキングを見ると、日本以外のアジア諸国の大学の躍進が著しいし、そのほかではオランダやスイスの大学の評価が高い。このあたりがどういう事情によるのか、検討してみる価値はある。

 さて、鈴木さんはアメリカの大学での入学者の選考をめぐるアドミッション・オフィスの役割について次のように述べる:
アメリカの場合、各大学にアドミッション・オフィスがあり、入学者選択についての全権を与えられた担当者がいて、アメリカ全土のめぼしい高校を巡りますね。
これに対して、諸星さんが:
・・・ アドミッション・オフィサーと呼ばれる入学についての専門家、プロフェッショナルです。
(86-87ページ)と答え、アドミッション・オフィサーの仕事ぶりについて説明している。高校を回って高校生と面談して、どういうことに興味があるのか、どういうことをやりたいのかといったやり取りをして、それに基づいて大学と本人の間でやり取りを重ね、大学を実際に見に出かけたり、奨学金についての確認をしたりして、両者の合意の上で入学を決定していく。
諸星 自分の大学のミッションをきちんと理解した専門家が、そのミッションに照らして、自分の大学と学生とのマッチング、ベストマッチを検討するということですね。
鈴木 私などは、かねてから、実に羨ましいシステムだと見ていました。
(87ページ)という議論の流れになる。しかし、「各大学」、「めぼしい高校」など気になる表現がみられる。アメリカの大学の数は多いので、アドミッション・オフィスの仕事ぶりもかなり多様なのではないか。全国の高校をめぐって高校生と面談するという大学ばかりではないのではなかろうか。それから、めぼしくない、大学のアドミッション・オフィスから相手にされない高校もあるということなのであろうか。
 そういうことを考えると、アメリカのアドミッション・オフィスの制度にも問題点があるのではないか、その点も含めて制度の全体をより実証的に検証してみる必要があるのではないかと思えてくる。実際に、アメリカの大学にも問題がないわけではない、大学に入学したのはいいけれども、ドロップ・アウトしたり、教室内で銃を乱射したりという学生が出ているのは、どういうことであろうか。日本の大学でも中退者は少なくないが、このあたりも数字を挙げて両者を比較検討していく必要がありそうである。
 お二人の職歴から判断して、アメリカの中堅どころのかなりいい大学での経験が判断の根拠になっているようであるが、もっと下の方の問題を抱えた大学についても視野を広げてみていく必要もあるのではないか。それから自分の受けた教育も、教えてきた内容も、文科系に偏っている傾向がみられる。理工系や医療系の学校で教えてきた経験を持っていると、もう少し見方が違ってくるのではないかという気がする。

 そうはいっても、ミッションに基づいて入学者を選考すべきであるという主張には筋が通っている。鈴木さんは、御自分が学長を務められている国際教養大学では「求める学生像」を明らかにして、入学者の選抜をそれと結びつけるように努力しているという。諸星さんは「その『求める学生像』と『選抜方法』が不可分だという考え方こそ、ミッションと学生のマッチング、アドミッション・ポリシーによる本来の学生の選抜法ですね。」(88ページ)とまとめている。たしかに望ましい方向ではあるが、日本の大学の実情に照らして実際にどこまで可能かの検討も必要ではなかろうか。

 鈴木さんはさらに、最近では在学中も卒業後も学生をサポートしていくという「エンロールメント・マネジメント」という言葉が盛んに使われていることに注意を向ける。どのようにサポートしていくかということも大学のミッションと関係するが、と同時に大学側の構想からずれていく学生たちにどのように向き合っていくか、学生の伸びしろを考えながら教育の在り方を調整していくことが求められるという。大学の定員が決められ、入学にあたっての判断の基準が「偏差値」に依存している日本の現状では難しいことも多いと論じられている。

 ここまで議論は日本とアメリカ・カナダの大学の比較をもとに進められてきたが、両者ともに大学といってもピンからキリまであるわけで、そのあたりを具体的に評価しながら慎重に比較していくこと、さらに第3の在り方をしている制度の実例も取り上げて議論を膨らませていくことも必要なのではないかと思われる。

 今回で第2章の検討を終らせるつもりだったが、達成できなかった。読めば読むほどいろいろなことを考えさせる本であり、何とか最後まで検討を続けていきたいと思っている。

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