プルタルコス『エジプト神イシスとオシリスの伝説について』(6)

8月20日(水)晴れ、暑くてかなわない。

 プルタルコスは自然現象を神々と感嘆に結び付けて考える傾向を俗信であるという。「季節ごとの環境の変化とか、収穫や種蒔きや耕作のような季節ごとの仕事の循環とか」(115ページ)を神々と結びつけて、「穀物の種を蒔いて土をかけると、オシリス様のお弔いをしたといい、芽をふいて穀物がまた顔を出すと、オシリス様がよみがえってお出ましだと言う」(同上)のは一部の人々が好むものではあるが、神々に対する正しい態度だとは言えないと考えている。(当時の人々が、たとえ一部の人々であるにせよ、このような習俗をもっていたとすれば、それはそれで興味深いことである。)

 「エジプト人が神々をギリシア人にもエジプト人にも共通のものだとして、エジプト人固有の神とせず、つまり、ナイル河、およびナイル河がうるおしている場所だけをこれらの神々の名のもとに限定し、あるいは沼地や蓮(ロトス)だけが神のみわざだと言うなどして、ナイル河もなくブトやメンピスのような都市もない国の人々をこれらの大いなる神々の崇拝から締め出す、というようなことをしていない、だからといってそれを驚くには及ばないのです」(115-6ページ)。
 翻訳者の柳沼重剛さんは訳注で「ヘレニズム時代以来、プルタルコスがこの作品を書いた時代まで、思想界全体を支配していた折衷主義、あるいは(とくにストア派の哲学者たちの)普遍主義的な考え方の表れだが、結果的に、エジプトの神々の礼賛、エジプトの宗教がギリシア人に及ぼした影響の大きさを語っていることになる」(193ページ)と論じている。もともと多くの民族、都市国家がそれぞれの神々をもっていたのであるが、民族間、都市国家間の交流が進むことにより、より普遍的な神という考えが生まれるのは、ユダヤ教の場合についても言えることである。
 そして神々を簡単に自然現象と結びつけることは、かえって髪を軽んじる結果となると警告する。

 さらに人々は「民族が違えば神々も違うとは考えなくなり、異邦人の神もギリシア人の神も区別なく、南の人の神も北の人の神もみな同じだということに」(117ページ)なったが、太陽や月、海などがすべての人間に共通ではあってもその呼び名が民族ごとに違っているように、神々の呼び方も異なっているのであるという。

 それゆえ哲学が提供する推論的思考を宗教やその儀礼に参加するための案内者として利用することが賢明であるという。様々な祭礼の決まり事も、理性的な思考によってその意味を知ることができる。ここでプルタルコスはいくつかの理性的な解釈の実例を示しているが、むしろどのような祭礼がおこなわれていたか(たとえばヘルメスの祭りには、「心理は甘きもの」と唱えながら蜂蜜といちじくをたべる)という記述の方が興味深いのは皮肉である。
 さらに「人間が生まれながらに授かっているものの中で最も神聖なものは理性、特に神々について理性的に思考する能力であり、また、これほど大きな、幸福への原動力もありません」(119-20ページ)と述べ、「神託を求めて・・・デルポイを訪れる人に、神を敬う心を厚くおもちなさい、謹んでめでたい言葉をお言いなさい」(120ページ)という忠告はこのような背景からなされるのであるが、多くの人がなかなか聞き入れることがないと嘆いている。
 特定の宗教を信じていなくても、寺社に参詣する場合には、態度と言葉遣いに気をつけるべきではないかと改めて考えさせられる。そういう意味ではプルタルコスは宗教全般を通じての普遍的なものに気付いていたともいえる。

 その一方で神々の死を嘆く陰鬱な儀式も存在するのはなぜかとプルタルコスは考察する。ここでも、挙げられている例が民俗誌的な興味を引くのであるが、プルタルコスは神々の死は季節の変化を反映するもので、実際に神々が死ぬことはありえないのだという議論を展開している。さらに神と神像、神と結びつけられている動物について、それらを混同して進行することの愚かさを指摘している。「ことばを正しく理解することを学ばないものは、その言葉が指しているものの扱い方をも誤る」(123ページ)というのは確かにその通りである。

 プルタルコスが問題にしているギリシャやエジプトの宗教は、日本人にとってなじみは薄いが、多神教である日本の伝統的な宗教との共通性があるので、それなりに分かりやすいのではないかと思う。そして異質の信仰の出会いについて、色々と考える手がかりを与えてくれるところもある。彼の思考のかなりの部分に納得がいかないのであるが、その誠実さは認めてよいのではないか。
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