語学放浪記(39)

7月26日(土)晴れ、暑し

 正確な日付を忘れてしまったのだが、ロシア語の時間にこんな話題が取り上げられていた。一事集中型というのか、一つのことをしっかりと計画的に成し遂げていくというタイプの人はドイツ人に多く、自分の興味のあることに片っ端から手を付けて、どれもこれもなかなか完成できないという人はロシア人に多い。このように人間の性格を二分してしまうのは乱暴な議論ではあるが、私はかなりはっきりとロシア人のほうのタイプに属している。

 ところがドイツ語のほうがロシア語よりは能力は上で、もちろんドイツ語だって使い物になるといえるほどに上達しているわけではないのだが、ラジオのまいにちドイツ語の応用編を聴いて何とかついていく程度にはできる。これはロシア語よりもドイツ語のほうに時間をかけて勉強したからであって、以前にも書いたが、ドイツ語ができる方が就職に有利だと発破をかけられて勉強した成果が今でも少しは残っているということである。それでも形容詞や名詞の格変化などはほとんど覚えていない。というよりも、はじめから覚えていないようである。だから結局のところ、少しは勉強の痕跡が残っているということであって、到底使い物にはならないのである。アンデルセンのドイツ語訳を対訳本で楽しみながら読むのが精いっぱいというところであろうか。

 外国語の学習における相性ということを考えた場合、一つは外国語学習そのものについての相性がある。暗記や反復練習が苦手だという人は、多くの外国語の学習で苦戦を免れない。高等教育が大衆化すると、あまり学習耐性の整っていない学生が増えてくるわけで、だから第2外国語の学習を義務付けるということには疑問が生じる。もちろん学習耐性のない学生に耐性をつけるというのは大学教育の重要な課題になるはずであるが、物には程度というものがある。それにいまどきの大学の先生たちに、学生を鍛えて学習の耐性をつけさせるという仕事ができる人がどのくらいいるのかはかなり疑問である。

 それからいろいろな言語の中での相性というのも考えてよい。日本人は子どものころから比較的多くの種類の文字に親しんでいるとはいえ、外国の言語の中には文字を見ただけで、これは何だ!と思うようなものがある。ビルマ(ミャンマー)の文字など目の検査の記号によく似ていて、実際にビルマの留学生が目の検査を受けていて、ビルマ語の文字の名前を答えたという笑い話がある。ある言語が使っている文字は、それだけでかなりその言語のイメージを左右する。見知らない文字を見てそれだけげっそりする人と、よーし、これも人間の使っている文字だから読めないわけがない、やってやろうじゃないか!!と張り切る人がいる。両者を同列に扱うわけにはいかない。

 これに比べると最初に述べた民族性のようなものは、かなりいい加減なものであろう。計画性・組織性・整理整頓などというドイツ人気質は私にはまったく欠けたものであるが、落ちこぼれなりに言語の学習を楽しむことはできる。ただ専門的な上達はあきらめた方が賢明だというだけのことであって、そのあたりが大学院時代の指導教官と意見が異なって、行き別れてになってしまった点である。だから先生が無理にドイツ語の学習を強要せずに、適当にやれと言っていたほうがもっと楽しくドイツ語に接していたし、もう少し高いレヴェルのドイツ語の能力を見につけていたかもしれないと思う。

 それでも自分の性格から見てとっつきやすい外国語というのはあるかもしれないし、さらにその言語で書かれた文学作品が好きだとか、その国で盛んな文化活動やスポーツに興味があるというのも相性ではないかと思う。推理小説が好きで英語にのめり込むとか、トゥール・ド・フランスに熱を上げてフランス語を勉強したくなるとか、イタリア映画が好きでイタリア語を勉強するとか、サッカーのW杯でドイツが優勝したからドイツ語を勉強しようとか、きっかけはそれで充分である。

 外国語の教師というのは、自分が教えるその言語の魅力を学生・生徒に自分なりのやり方でしっかり語れる人であるべきだと思う。尾崎雄二郎先生の中国語の時間の最初の授業で、先生が中国語の音が作り出すリズムが詩の中でどのように生きているかの実例として「涼州詞」を現代中国語の発音で朗誦してくださったことを時々思い出し、自分でも朗読してみることがある。大畑末吉が旧制高校でドイツ語を教えていたころ、テキストを訳して見せながら、ここのところはいいですねぇなどと生徒たちを前にして感嘆していたという話がある。生徒がどの程度ドイツ語に上達したかどうかはわからないが、先生の姿はいつまでも思い出として残ったようである。
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