プルタルコス『エジプト神イシスとオシリスの伝説について』(3)

7月21日(月)曇り後晴れ

 この書物は、古代エジプトの神話についてギリシャ人であるプルタルコスが紹介し、彼の世界観に基づいて解釈を加えたものである。博識ではあるが、鋭い分析力を持っているとはいいがたい著者の論述の中で、その当時の人々の考え方の一端が分かること、それにごくささいな事柄に新しい探求の糸口が潜んでいること、この2点が重要ではないか。

 ギリシャの神々であれ、エジプトの神々であれ、神々に対しては敬虔であれというのがプルタルコスの主張である。また、「宗教上の儀礼には、ある人々が信じているように、不合理な点とか作り話めいた点とか迷信的なものは織り込まれていません。むしろ道徳的な理由やそうせざるを得なかった必然の理由があり、歴史や自然による洗練に無縁でもないものです」(23ページ)というのが彼の立場である。人間のすることにはそれなりの理由があるという意味では正しいと思うが、その理由が人間の経験の蓄積によって不合理なものとして廃棄されることはあるのではなかろうか。神に関する教えは謎めいているというのは、その当時の人々の考えを示すものとして受け取ることができる。

 オシリスとイシスという神々の誕生をめぐってプルタルコスは次のような神話を紹介している:
「レアはクロノスとひそかに契りあいましたが、それが太陽神の知るところとなり、彼はレアに呪いをかけて、いかなる月にもいかなる年にも子を産むことなかるべし、と申しました。ところがこのレアをヘルメスが愛して交わり、それから月と将棋をさして勝ち、彼女の輝きから70分の1を取り上げ、その取り上げた70分の1を5日として集めて、360日に付け足しました。この付け足された5日を、今日のエジプト人は閏日と呼び、神々の誕生日として祝っています」(30-31ページ)。
 閏日の第1日目にオシリスが、第2日にアルエリス(アポロン、ホロス)が、第3日にテュポンが、第4日にイシスが、第5日にネプテュス(テレウテ、アフロディテ、ニケ)が生まれた。ギリシャとエジプトの神々が習合して訳が分からなくなっている。本来のギリシャ神話ではレアとクロノスが夫婦であったはずだが、プルタルコスはレアは太陽神(ヘリオス)の妻であったと考えているようである。ギリシャの神々からエジプトの神々が生まれたと考え、しかもそれらの神々はギリシャの神々としての別名も持っているというのはわが本地垂迹説のような趣を感じさせる。

 もう一つ注目されるのは、ギリシャの神であるヘルメスが月と将棋をさすという個所で、ここには「将棋というのはエジプト名でセネト、ギリシア語でペッティア(あるいはペッテイア)というもの。骰を振る点では双六に、石を使う点では碁に、しかしその石を桝目によって動かす点では将棋に似ている。ヘルメス(トト)が将棋をするというのは、エジプトの文献に明記されているわけではない。しかしプラトンも『パイドロス』274C(加来彰俊訳の岩波文庫、133ページ)で、トトが算術と天文学、幾何学、将棋と双六を発明したと言っているので、これもエジプト・ギリシアの宗教の習合以後生まれた所伝であろう。この挿話に太陽暦と太陰暦の抗争を見る学者もある」(151ページ)という訳注がつけられている。ささいな事柄に探求の糸口が潜んでいるということの一例である。

 すでに述べたことの繰り返しになるが、オシリスはエジプトの王位につくと、エジプトに文明を広める。「栽培して実りを得る道を示し、法を定め、神々を敬うことを教えたのです。後にエジプト全土をくまなくめぐって平定しましたが、身に寸鉄を帯びず、言葉の力、そしてあらゆる種類の歌と音楽によって大勢の人々を惹きつけて従えました。ですからオシリスは、ギリシア人から見るとディオニュソスだということになるのです」(33ページ)。古代の帝王が音楽の力で人々を導いたというのは、中国など他の古代の神話伝説にもみられることである。しかし、オシリスとディオニュソスの信仰を同一視できるかは疑問が残る。ディオニュソス信仰はかなり熱狂的なものであり(ニーチェの『悲劇の誕生』におけるアポロン的とディオニュソス的という二分法を思い出していただきたい)、オシリスの方はどんなものかわからないから何とも言えないが、プルタルコスの記述は乱暴であるように思われる。

 プルタルコスの『モラーリア』は大著であるが、『エジプト神イシスとオシリスの伝説について』はその一部を取り出したものなので、簡単に紹介できると思ったが、読んでいくと結構面白いので、なかなか終わりまでたどり着くことができない。その点をご理解の上、お付き合いのほどをお願いする。
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