プルタルコス『エジプト神イシスとオシリスの伝説について』(2)

7月13日(日)晴れたり曇ったり

 以前にも書いたことがあるが、最初の職場では「哲学」を教えていた。技術系の学校で「哲学」を教えるのは、戦前からの思想善導的な意味合いが含まれていたようであるが、果たしてどれほどの効果があったのだろうか。大学で哲学を専攻したわけではないし、それ以上に教養部で履修した哲学の成績は「不可」であったのだから、自分がこの科目を教えるのにふさわしいとはどうも思えなかった。それに加えてさらに、就職先のほうでは「生き方について教えてくれればいい」などといってくるので、ますます混乱してしまった。

 「生き方」は誰かに教えられるものというよりも(教えたがる人がいることは否定できないが)、一人一人が自分で学び取るものである。「哲学」を通して「生き方」を学び取ることもできるし、その可能性を否定するものではないが、実際のところ多くの人は、自分の周囲の尊敬できる人を見習い、尊敬できない人を反面教師にしながら自分の「生き方」を作っていくのではなかろうか。夜、遅くまで哲学書を読むよりも、早寝早起きのほうが健全な生活にとって重要なのではなかろうか。そういう考えから、改めてプルタルコスの書物を読み返してみようと思う。

 プルタルコスの『モラーリア』はヨーロッパの多くの知識人たちに愛読され、称賛されてきた書物だそうである。エラスムスなどはプルタルコスを「最も学識深き」と最大級の賛辞を与えたという。『エジプト神イシスとオシリスの伝説について』は読んでいて、多くの未知の事柄を教えてくれるし、それ以上に既知の事柄についての新しい解釈の可能性を示してくれる書物である。とはいうものの、プルタルコスの同時代人といってよいタキトゥスの『ゲルマーニア』や『同時代史』に比べるとどうも書物としての魅力に欠ける。

 『エジプト神イシスとオシリスの伝説について』は著者の知人であるクレアという名前の女性へのメッセージから始まる。古代の書物は手紙の形をとって書かれたものが多いが、これもその1つらしい。プルタルコスは知識は神にお願いをして得るものだとまず述べて、神が人間に与えるものの中で最も重要なものが真理であると説く。そして神にとっても、まして人間にとっても理知が最も重要な価値をもつものであるという。そしてイシスは理知の女神なのである。

 クレアという女性がエジプト人なのか、エジプトに住むギリシャ人なのか、あるいはその他の民族に属しているのかはわからない。名前から言えばギリシャ人かもしれないが、クレアというのが本名かどうかもわからない。ただ、「あなたがお仕えなさっているイシス」(12ページ)という表現がみられるから、イシス信仰に深くかかわっていた人物と考えてよい。だとすると、そのような人物に当の神様についての解説をするというのも奇妙な話である。

 それでも、紀元1~2世紀のローマにおいては、その版図の拡大に伴って様々な信仰が持ち込まれ、共存し、交流していたというのは、現代の中東における宗教紛争を考えると、高く評価すべきことである。2000年近くの歴史をかけて、宗教画憎悪の根源になってしまったというのは人類として恥ずべきことではなかろうかと思われる。プルタルコスは基本的にはギリシャの神々を信じていたのであろうが、そのギリシャの神々はゼウスがユピテルになったようにローマの神々と習合し、新しい属性を獲得していったのである。そのような環境の中で、様々な信仰について哲学的に解釈することによってその価値を安定させ、普遍的なものとすることがプルタルコスの意図であったと思われる。

 もっとも、イシスという名前はギリシャ語起源だといったり、この神様はギリシャの神々の系譜ではどのように位置づけられるかなどと論じたりして、プルタルコスがギリシャ中心の考え方を脱しきっていないことも注目しておく必要があるだろう。そういう自己中心的なものの見方があるにせよ、他の信仰・世界観をそれなりに認めていくという態度を我々は限定的にではあるけれども評価していくべきではなかろうか。

 書物の冒頭の本の数ページの内容を紹介しただけで終わってしまった。ただ、外国の神様について哲学的に考察しているこの書物よりも、外国に暮らす人々の姿をできるだけ客観的にとらえようとしたタキトゥスの書物のほうが面白いという私の意見に同意していただけるならば、幸いである。



 
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