太平記(5)

6月29日(日)雨が激しく降ったり、やんだり、時々雷鳴

 鎌倉幕府を倒し、朝廷に政権を奪い返そうとする後醍醐天皇のご意向を受けて、日野資朝、日野俊基らの公卿が奔走し、公卿、僧侶、そして武士の間に同調者を拡大し始めていた。彼らは幕府の目を欺くために無礼講と称して、遊興の席を設ける一方で、倒幕のための密議を凝らしていたが、陰謀は思いがけないところから発覚することになる。

 密議に加わっていた武士の中に土岐左近蔵人頼員(よりかず)という武士がいて、幕府の重要な役職についている齋藤太郎左衛門尉利行という武士の娘を妻にしていた。彼は妻を愛するのあまり、もし自分が死んでも再婚しないでほしいし、二人とも生まれ変わることができればまた夫婦になろうと言い出す。不審に思った妻が何でそんなことを言うのかと問いただすと、実は自分は天皇の意を受けた倒幕の企てに参加していると口にしてしまう。

 頼員は妻に対して人には言うなと念を押したのだが、妻のほうが頭もいいし、度胸も据わっていて、もし企てが成功すればよいが、失敗すれば大変なことになる、それよりも、これを幕府に密告した方が安全だと考えて、自分の父親である利行に一部始終を知らせる。利行は驚いて、頼員を呼び寄せて聞きただすと、頼員は慌てふためいてとにかく自分に害が及ばないように取り計らってほしいと懇願する。

 そこでまだ夜が明けないうちに斎藤は幕府の出先機関である六波羅に向かって、事の仔細を報告し、これを聴いた六波羅探題は京都中の武士たちを六波羅に召集することを決める。そのころ、摂津の国(今の大阪府の一部)葛葉というところで紛議が起きていたので、その鎮圧に事寄せて武士たちを招集したのである。倒幕の密議に加わっていた武士たちもまさか自分たちが追討の対象となるとは知らず、葛葉に向かう準備をして自宅にとどまっていた。

 元亨4年9月19日の早朝、多数の武士が六波羅に集まった中で、小串三郎左衛門範行、山本九郎時綱が指揮を命じられ、3,000名余の軍勢を率いて六条河原にやってきたが、そこで軍勢を二手に分けて、多治見四郎国長の宿所である錦小路高倉と、土岐十郎の宿所である三条堀川を攻めることにする。

 時綱はもし大勢で押しかければ相手に察知されて、討ち洩らすものも出てくるだろうと、軍勢を河原にとどめたままただ1騎、中間2人に長刀をもたせて静かに土岐十郎の宿所に向かう。宿所の様子を確かめ、逃げ場がないことが分かったので、打ち取ろうとするが、土岐十郎も目を覚まして応戦する、時綱は相手を生け捕りにして陰謀について白状させようと思ってわざと後ろに下がって切り結んでいたのだが、河原に残してきた軍勢が加勢に駆けつけ、今はこれまでと思った土岐十郎は切腹し、残りのものも討ち死にしたので、首をとって時綱たちは六波羅に戻った。

 多治見の宿所には小串の率いる2,000余騎の軍勢が押し掛ける。多治見は夜遅くまで酒を飲んで、泥酔して眠り込んでいたが、物音に驚いて、何事かとあわて騒ぐ。そばで寝ていた遊女がこういう事態になれている女で、すぐに武具を見につけさせ、部下の者たちも大声を立てずに起こしていく(土岐頼員の妻といい、いざという時の度胸は女性のほうが座っている場合が多いことを作者はごくあっけらかんと記していく)。

 多治見の家来の小笠原孫六は遊女に起こされて、大刀だけをもって中門まで走り出して、表の様子を見ると六波羅からの軍勢が押し寄せていることが分かったので、陰謀が露見したと悟り、宿所の中の武士たちにその旨を知らせると、弓矢をもって門の上の櫓にのぼり、25本の矢の1本を残して24本のすべてで押し寄せてきた兵たちを射落とし、残る1本は冥途の旅の用心にするといって櫓からたちを咥えて飛び降りて自害した。

 小笠原孫六が時間を稼いでいた間に支度を整えた多治見の軍勢は決死の覚悟で戦ってきたので小串の軍勢は手こずっていたが、多数を頼み、また大手だけでなく絡めてからも攻撃を加えて挟み撃ちにしてようやく全滅させることができた。

 倒幕の企てを漏えいした土岐頼員は別として、企てに加わっていた武士たちの勇猛な戦いぶりは『太平記』全体における武士たちの気風の一端を示すものである(その一方で、頼員のように臆病な武士もいるわけである)。乱世の中で人間は時として勇猛になり、時として臆病にもなる。しかし生き延びていくためにはその他の性質も必要とされるかもしれないし、それ以上に運がものをいうようにも思われる。

 こうして密議に加わった武士たちは六波羅の軍勢に滅ぼされたが、それ以外の人々はどのような運命をたどることになるのか。続きはまた次回。 
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR