垂水雄二『科学はなぜ誤解されるのか わかりにくさの理由を探る』(2)

6月11日(水)曇りのち雨、時々激しく降る

 5月26日の当ブログで2部5章からなるこの書物の第Ⅰ部の内容を紹介したが、ダ―ウインの進化論が受けてきた誤解について論じた第4章と、リチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」が受けている誤解について論じた第5章は(とくに後者に)なかなか歯が立たず、そのままになっていた。この書物の第1章に「日本でも最近、降圧剤バルサルタンの臨床試験に関して京都府立医大ほかでなされたノバルティスファーマ社がらみの捏造論文が話題になった」((17ページ)と記されている事件をめぐり、新しい動きがあったというニュースがテレビで報道されたのを見たこともあり、いつまでも放置しておくわけにはいかないだろうと思って、自分の能力の許す限りで、わかったこと、考えたことを書いておこうと思う。

 ダーウィンの『種の起源』が出版されたのは1859年であったが、2009年にギャラップ社が行った世論調査によると、アメリカで進化論を信じる人は40%しかいなかったそうである。神が生物の種を創造したという考え方こそ、ダーウィンが打倒しようとした大きな目標であったのだから、アメリカについてみるとこの書物の目的は達成されていないことになると垂水さんは書いている。

 『種の起源』は当時支配的であった「すべての種をひとつひとつ神が別々に創造された」という個別創造説に異議を申し立てようとする書物であった。「個別創造説は当時の支配的な自然観であった自然神学の根幹をなすものである。それは…物理現象を含めた自然の秩序、生物の精巧な体のつくりや驚くような本能といったことのすべてに、カミの設計(デザイン)が現われているという主張(argument from desigen=目的論的証明、デザイン論とも訳される)である。啓示や奇跡が神の存在の証だとする啓示神学と異なるのは、理性によって神の存在を証明できると考える点である」(116ページ)。『19世紀前半の英国で、…ほとんどの科学者は、この自然神学を信奉し、自然の法則を明らかにすれば神の存在を明らかにできるという宗教的信念に衝き動かされて研究していた」(117ページ)。

 そこで世界のすべての動植物を記載して一定の秩序のもとに配列することが神から与えられた生物学者の使命だという考えから、幾人もの若く優秀な生物学者が辺境への探検旅行へと派遣されることになる。ダーウィンもその1人であったが、彼はビーグル号による世界周航から帰国したころ、種の普遍性に疑いを抱きはじめる。「ガラパゴス諸島から持ち帰った鳥類の同定を依頼していたジョン・グールドから、フィンチやマネシツグミが島ごとに異なる別種な意思変種だという報告を受けたのが契機となったらしい。1つの島ごとに種がそれもきわめて近縁な種が個別に創造されるなどということは理屈に合わない。ダーウィンはひそかに転成(トランスフォーメーション)説(種が変わるという広い意味の進化論)への転向を決意する」(119ページ)。

 ダーウィンの時代には遺伝学も生態学も発生学も学問としての形を成していなかったと垂水さんは指摘する。そうした中で種が変わることを誰にでも信じられるように立証していくことはきわめて困難な作業となった。「しかし彼は、現在読んでも色あせない緻密で種が変わることを論証していく。家畜栽培の実践、形態学、個体発生、分類、化石、地理的分布について知られていることはすべて、種は変わるという視点から考えれば、ことごとく説明がつき、腑に落ちることを縷々語っていく」(120ページ)。

 ダーウィンは多くの著作を残したが、『ビーグル号航海記』と『種の起源』は広く読まれている。垂水さんは『種の起源』はあまり読まれていないと書いているが、かなりの版を重ねているし、私も内容はあまりよく憶えていないが、読んだことはある(垂水さんが問題にしているのは、こういうこと=一応目を通したけれども、内容を正確に理解しえた人は少ないということではないかと思う)。それでも、イヌに比べると、ネコは品種の違いが目立たないのはなぜかというような身近な疑問に対する回答が準備されている個所があったことは覚えている。

 一方『ビーグル号』は博物誌的な関心から多くの読者を獲得した。博物誌的な要素はロビンソン物語において読者の興味をつなぐうえで重要な役割を果たすが、ジュール・ヴェルヌの少なからぬロビンソン物語のひとつである『神秘島の冒険』の中にこの書物からの引用がみられるのは、特に注目に値する例である。

 これからしばらく時間をかけて、この書物の内容についてさらに取り上げていきたいので、よろしくお付き合いください。 
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