『黄色いさくらんぼ』『モダン道中 その恋待ったなし』

6月8日(日)雨

 シネマヴェーラ渋谷で「野村芳太郎監督特集」の中から『黄色いさくらんぼ』(1960)、『モダン道中 その恋待ったなし』(1958)の二本立てを見る。松竹のエース格の監督として様々な作品を遺した野村の特集であり、見たい作品は少なくなかったのだが、なかなか都合がつかず、これだけは見に出かけようと何とか出かけてみた次第。ともに野村とともにその愛弟子の山田洋次が脚本を書いている喜劇であり、この師弟コンビのその後の作品との関連で興味がもたれる作品ではないかと思ったのである。野村はサスペンス映画の傑作も残しているが、私としては喜劇の方に興味がある。

 『黄色いさくらんぼ』は当時流行した浜口庫之助の歌をもとに作られた作品。なぎさ、笛子(ピーコ)、サヨリは同じ女子大学に通う仲良し3人組、なぎさには建築士の恋人がいて、結婚資金をためるために夜のアルバイトをしている。特に熱心に通っている客というのがどうも笛子の父親らしい。その笛子は通学途中の電車で乗り合わせた学生を痴漢と間違えてそのズボンを着るが、間違いが分かって仲直りをする。ところがその学生が父親の部下の息子であることが分かる。なぎさの恋人は熱海の建築現場で働いているのだが、笛子の父から熱海行きを誘われる。そこで笛子を誘って熱海に出かけようとするが、サヨリもついてくるという。一方、恋人というのが現場の作業員や地元の人たちとすっかりなじんでいて、特に人気のストリッパーから慕われている。彼がどの女性を選ぶかをめぐり、作業員の間でけんかが起きたりする…

 歌、お色気、笑という映画の3要素を、なぎさ=芳村真理、笛子=九条映子、サヨリ=国景子という3人の女優がうまく分担して表現できればよかったのだが、成功しているとは言えない。篠田正浩の『乾いた湖』でも女子学生役を演じていた九条映子の演技に見るべきものがあるだけというのは厳しい評価であろうか。

 『モダン道中 その恋待ったなし』は、銀行員の松夫が懸賞に当たって東北・北海道旅行に出かけるが、記者の中で出会った自動車修理工の竹彦と意気投合し、一緒に旅行を続けることになる。旅の途中であわよくば人生の伴侶を見つけようというつもりで、松夫はロマンチックな恋を夢み、竹彦はより現実的な恋を求める・・・という設定がそもそもあまり現実的ではない。飯坂温泉で2人は泥棒の常習犯とそれを追いかけている刑事に遭遇、この2人組に旅の最後まで付き合うことになる。松島で令嬢風の美人とその妹に出会い、最初の印象はよくなかったものの2度、3度と会ううちに松夫の方が彼女と惹かれあう。十和田湖に向かう途中で松夫は彼女に再会するが、若い男の連れがいるので気おくれしてしまう。いったん別行動をとった松夫と竹彦は弘前の街で再会、乗り合わせた円太郎馬車の御者をしている若い娘に竹彦は心惹かれる。

 松夫が佐田啓二、竹彦が高橋貞二、令嬢風の女性が岡田茉利子、御者の娘が桑野みゆきということで配役だけで結末が見えそうな感じであるが、東北・北海道の名所の風景を織り込み、泥棒と刑事の追跡劇、恋敵の介在、岡田茉利子(映画のナレーションもしている)の本当の姿など、波乱含みで最後まで物語を引っ張っている。円太郎馬車はこの時代でもすたれかけているという描き方がされているが、その当時は普通に利用されていた蒸気機関車、青函連絡船も今や姿を消してしまった。寝台列車も次第に廃止されてきている。映画が捉えている同時代の風物に懐かしさを感じさせられる一方で、映画が作りものであって現実そのものではないという作者の側のこだわりも感じられる。飯坂温泉の場面で「ここまでがロケーションでここからがセットです」というナレーションが入るが、これは山田洋次監督(当時は助監督)が言わせていたのではないかなどと考えていた。

 旅行中、松夫と竹彦は深酒をしてはそのたびに二日酔いに苦しむ。これは当時の映画人の日常そのものだったのかもしれず、2人を演じている佐田啓二と高橋貞二も例外ではなかったようである。横山隆一が小津安二郎の思い出を語る中で、小津さんは一流好みの人だったので、酒を飲もうと誘う時の使者に佐田啓二を寄越すんですよ、といっていたのを思い出す。野村のこの作品を支配している遊び心もそのような流れにつながるものとして評価すべきであろう。
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