垂水雄二『科学はなぜ誤解されるのか わかりにくさの理由を探る』

5月26日(月)曇り、夜になって雨が降り出す

 5月16日、垂水雄二『科学はなぜ誤解されるのか わかりにくさの理由を探る』(平凡社新書)を読み終える。垂水さんの書いたものを読むのはこれが初めてなのだが、自然科学、特に遺伝や進化論にかかわる文献の翻訳に長くかかわって来た方だそうである。これらの領域にはそれなりに関心はもっているつもりであるが、読み終えるのに苦労したし、どこまで理解できたかもわからないが、わかったつもりになっている部分だけでも紹介してみようと思う。

 この書物は2部からなり、第Ⅰ部は,「科学的コミュニケーションを損なう要因」、「騙されやすさは人間の本質――知覚の落とし穴」、「複雑な現象の理解は簡単ではない」という3つの章からなり、科学コミュニケーションを阻害する一般的な要因について取り上げ、第Ⅱ部は「誤解されるダーウィン――進化論再入門」、「『利己的な遺伝子』をめぐる誤解」という2章から構成されて、進化論と利己的遺伝子説を取り上げて、科学思想の受容における誤解と歪曲について具体的に述べている。

 垂水さんは「はじめに」のなかで、自分自身もその翻訳にかかわったリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』が広く読まれる一方で、『利己的な遺伝子』という言葉に込めた著者の意図と一般読者の受け取り方には大きなズレがあることを指摘して、この書物を書き出す。 学術的な用語や概念の誤った理解や使用は、自然科学一般に見られる現象であるが、もともと限定的な意味でつかわれるはずの学術用語が読者によって一般的な意味として受け取られる場合が少なくないこと、さらに読者が与えられた科学的な概念や法則の中で自分に都合のいい部分、都合のいい解釈だけを採用する傾向をもつことによるものであるという。

 第1章「科学的コミュニケーションを損なう要因」では、まず科学者の側の誤った情報発信としてねつ造と情報操作、またパラダイムの違いによって起きる誤謬がそれぞれの事例に即して取り上げられる。他方、受け手の問題として正しい情報と誤った情報を区別することが容易ではないこと、メディアによる歪曲の可能性が指摘されている。その中で他の分野との整合性を考えることが示唆され、集団心理の恐ろしさについて触れられている。

 第2章「騙されやすさは人間の本質――知覚の落とし穴」では、まず比喩的表現の功罪が論じられる。「科学的に難解な概念や事柄を比ゆ的な表現によって理解するのは、自分の腑に落ちる部分だけをわかったつもりになるということでもある」(48ページ)ということから、「ビッグバン」「ヒッグス粒子」の通俗的な説明の問題点について論じている。さらに学術用語を研究者はできるだけ意味を限定して使っているのだが、受け取る側はその用語が持つ他の意味を読み取ろうとする誘惑にかられることがあるという。たとえば数学的な概念である「カタストロフ」が、日常的な意味で理解されたりする。さらに人間の知覚が当てにならないこと、記憶も歪められることなどが実例を援用しながら語られている。

 第3章「複雑な現象の理解は簡単ではない」では、相関関係は因果関係を示すとは限らないこと、決定論的ないなが関係だと考えたのでは見えないことが確率論的な手法によって見えてくる場合があることが指摘される。一方で統計学を用いた新しい自然科学の展開の事例が紹介され、他方で統計のウソ、統計的な手法の限界も論じられている。

 今回は第Ⅰ部の紹介だけにとどめておくが、科学の新しい動向についての理解が一足飛びでは得られないことが実感としてわかった。高校や大学で学んだことが最終的な知識となるのではなく、たとえ門外漢であっても、新しい動向については絶えず注意して目を向けていく必要があると思う。ここではほとんど紹介を省略してしまったが、個別的に取り上げられている様々な事例を丁寧に読んでいくことも大事であろう。
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