アラン・ブラッドリー『春にはすべての謎が解ける』

5月2日(金)晴れ

 アラン・ブラッドリー『春にはすべての謎が解ける』(創元推理文庫)を読み終える。4月29日に購入、4月中に読み終えるつもりだったのだが、予期していた以上に読み応えがあった。

 第二次世界大戦が終わって間もないころのイングランドの田舎、ビショップス・レーシーの古い屋敷バックショー荘に住む11歳の少女フレーヴィア・ド・ルースは化学が大好きな少女でこの屋敷のもとの持ち主であった大おじ(将来を期待された化学者であった)が残した実験室を自分のものとして暮らしている。家族は切手収集が趣味の父ハヴィランド、ピアノが上手な17歳の姉オフィーリア(フィーリー)、読書家で物知りの13歳の姉ダフネ(ダフィ)。母のハリエットはフレーヴィアが1歳の時にとっざん中の事故で死亡した。バックショー荘はハリエットが相続したものだが、遺言状がなかったせいで、父はない国税収入庁から責められており、家計は火の車状態である。3人姉妹の上の2人は仲がよく以心伝心状態だが、末のフレーヴィアに対しては「もらわれっ子」だといじめるのが常である。それでも邸を手放すことになるかもしれないということになると一家はまとまりを見せる。そんな中でいつもフレーヴィアの味方になってくれるのが邸の庭師であるドガー、このほかにゴシップが大好きな家政婦のマレットさんが邸に通ってくる。

 カナダの作家ブラッドリーはこれまで『パイは小さな秘密を運ぶ』、『人形遣いと絞首台』、『水晶玉は嘘をつく?』、『サンタクロースは雪のなか』とフレーヴィアがビショップス・レーシーで起きた事件を解決する作品を4編発表してきた。イースターが近づき、フレーヴィアは間もなく12歳になろうとしている。姉のフィーリーは18歳になり、結婚するという話が具体性を帯びてきた。

 村の教会のオルガン奏者のクリスピン・コリカットが行方不明になったため、フィーリーがその跡を継ぐことになった。一方、この教会には聖タンクレアウスという聖人の遺骸が埋葬されているのだが、考古学研究のためにその墓が発掘されることになった。その発掘現場に居合わせたフレーヴィアはコリカットの死体を発見してしまう。それだけでなく、教会とその周辺では不思議な出来事とうわさが絶えない。フレーヴィアは警察や教会の人々に協力する一方で、彼らの目を巧みにかわして事件の真相に迫ろうとする。植物考古学者と自称するアダムという男が彼女の前に現れて協力を求めてくる。主教代理は発掘を邪魔しようとしているようであるが、その真意はどこにあるのか…

 物語の舞台はイングランドであるが、作者はカナダ人、シリーズ第1作『パイは小さな秘密を運ぶ』は作者が70歳の時に発表されたものだという。豊かな想像力に加えて多くの推理小説を読みまくった成果がこのシリーズを生み出しているのだと思われる。フレーヴィアが化学実験に余念がないというのはシャーロック・ホームズを思い起こさせる。村の教会と司祭の夫婦が大きな役割を果たすというのは『牧師館の殺人』をはじめとするクリスティーの作品によく見られる(現在の英国では住民と教会の結びつきが希薄になってしまっているから、物語はどうしても過去の出来事という設定になってしまう)。インドからもたらされたダイヤモンド「ルシファーの心臓」が一連の事件と絡み合うというのは『月長石』を連想させる。ギリシア神話やシェイクスピア、クラシック音楽についての造詣、その一方でモイラ・シアラー(我々にとっては過去の女優だが、物語の登場人物にとっては同時代人のはずである)が飛び出す作者の博識と好奇心の広がりにも目を見張るところがある。

 時代背景も舞台の設定も書物から抜け出したような型どおりのものであり、現実性が乏しいといわれればその通りかもしれないが、最近の英国ではリチャード3世の遺骨が発掘されたというニュースも伝えられた。なお、『春にはすべての謎が解ける』というのは翻訳者が物語の内容を踏まえて与えた表題で、原題はSpeaking from among the Bones 、直訳すれば「骨の間から話している」ということであろうか。墓地や遺骨が進行に大きなかかわりをもつので、正直気味の良い物語ではない。それでも、フレーヴィアの独特の勇気と闘志に支えられて読者は最後まで読み通すはずである。

 翻訳について一言付け加えれば、イングランド国教会(聖公会)では牧師といっても司祭といってもいいそうであるが、教会の役職について「主教代理」とか「政務官」とかいうのは具体的にどういうことなのかなと考えてしまった。英語で何というかをフリガナで示してくれた方がわかりやすかったという気がするが、これは私だけのことであろうか。
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