東海林さだお『いかめしの丸かじり』

4月20日(日)曇り

 4月19日、東海林さだお『いかめしの丸かじり』(文春文庫)を読み終える。『週刊朝日』2009年8月7日号~2010年4月30日号に連載された「あれも食いたいこれも食いたい」をまとめ、2010年6月に朝日新聞社から単行本として出版されたエッセー集の文庫化である。連載も単行本も、文庫もそれぞれ長年にわたり多くの愛読者(私もその1人)を集めてきたので、いまさら書くことはあまりないようにも思われるが、今回の文庫はその解説を小泉武夫さんが書いており、それだけでもかなりの価値があるのではないかと思う。

 東海林さんの食べ物をめぐるエッセーの特徴の1つは、時々の流行を反映しながらも、一般庶民の手の届くところで探訪を繰り返しているところではないかと思う。もちろん、高級な料理を食べることもあるが、その時は腰が引けた姿勢を見せているし、ゲテモノを食べる時にはおっかなびっくりの気持ちを告白する。身近な経験に基づいているとはいえ、そこから引き出される見解はかなり独創的なものがあるし、東海林さんの筆にかかると物事が別の意味を持つのではないかと思われるところがある。

 長年、エッセーを書き続けていると、同じ題材を取り上げることもあるのだが、うまい具合に題材のほうが変化していることが多いようである。冒頭の「じいさんビアガーデンに行く」はそんな一編。ビール党の東海林さんがビアガーデンに行かないわけがないのだが、自分が盛んに出かけたころと、10年ぶりぐらいに出かけることになった現在との変化を中心にまとめている。提灯がなくなり、メニューが変わり、注文のシステムが違っている。「これからどうなるんじゃろう」「不安じゃのう」(14ページ)。

 そういえば、昔国会議事堂内の食堂に出かけた体験記を読んだことがあったが、今回の「新国会丼」はどんな変化を描いているのかと思うと、国立国会図書館内の食堂に出かけた一部始終が書かれていて、肩透かしを食った形である。それでもすれ違う女性が皆化粧をしていないことに「感動」するあたり、東海林さんでないと書かないような着眼がみられる。食堂のメニューである「国会丼」「新国会丼」の命名の由来は読んでのお楽しみにしておくが、「感心していいのか」(110ページ)と半信半疑の感想が語られているのも注目してよいところである。

 その一方で、「どうもオレ、何でもかんでもビールにもっていこうとする傾向があるな」(「おいしいよ、アメリカンドッグ」、183ページ)とか、「ぼくとわがレバーの信頼関係は、永久に不滅です」(「わが愛するレバーよ」、213ページ)というような絶えず繰り返される言葉も散見される。最後を飾る「懐かしの海苔だけ海苔弁」では自分でのり弁を作るだけでなく、中高生の時の通学の思い出を踏まえて、仕事場に置いてある弁当箱をゆすったりする。この工夫と熱意とが東海林さんのエッセーを支えていることも忘れてはなるまい。

 小泉さんの解説であるが、東海林さんが座談の名手であること、野球の選手としても一流であること(もちろん、草野球のレヴェルでの話ではあろうが)などなど、身近で接している人ならではの指摘に加えて、東海林さだおシンポジウムの企画提言がなされている。シンポジウムを傍聴に出かけるかどうかはわからないが、展覧会ならば足を運んでもいいなと思っている。早稲田の漫研時代に東海林さんが展示制作に大活躍したという思い出を読んでいるから余計にそう思うのである。 
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