最後の億万長者

4月19日(土)晴れたり曇ったり、時々小雨

 シネマヴェーラ渋谷で「ナチスと映画Ⅱ』の特集上映の一部として上映された、デンマーク映画『姿なき軍隊』(1945)とフランス映画『最後の億万長者』(1834)を見る。ルネ・クレールが第二次世界大戦前のフランスで最後に作った作品である後者を取り上げる。

 どこにあるのか画面に登場する地図を見ていてもわからないが、とにかく遠くのほうにカジナリオという小さな国がある。都となる年が1つあるだけの小国である。この国では国営のカジノに観光客たちが落とす収益で国民全体が豊かに暮らしているが、カジノの拡張計画がうまくいかず、財政難に陥り、同国の出身者で大銀行家として成功したバンコ氏に助けを求める。バンコ氏は同国を訪問すると、さっさと行政長官に就任したと言明、それだけでなく、カジナリオの女王の孫である美しいイザベル姫との結婚を望む。ところが姫には王室付きのオーケストラの指揮者である恋人がいて結婚を望まない。

 バンコ氏が行政長官に就任したことで、それまでこの国の政治を動かしていた元老たちが不満を持ち、彼の暗殺を企てる。暗殺は失敗するが、頭を打ったバンコ氏の言動が異常なものとなる。椅子で殴られたために四脚の椅子の使用を禁止し、成年男子の半ズボンの着用、バンコ氏の許可を得ない発言の禁止…、国中に異常事態が広がる。というよりも、カジナリオ国とバンコ氏の動静を伝えるニュースがほとんど海外に流れなくなる・・・。

 グローバル化が進んだ今日の目から見ると、なんとも大時代的なおとぎ話にしか思えないような物語が展開する。「ナチスと映画」というテーマの下での上映であり、確かに1934年という映画製作の時点を考えるとナチスへの批判が作者の脳裏にはあったと思われるのだが、風刺としては生温いという印象が残る。独裁者の異常な言動を面白おかしく描くというだけでなく、それを受け入れてしまう国民の側の問題を描かない限り、風刺として完結しないのではないか。

 さらに言えば、バンコ氏の王女への年齢をわきまえない横恋慕というのも、若者同士の恋に、老人が年甲斐もなく介入するというギリシア・ローマ以来の喜劇の常套の域を出ていない。ことが一国の王女様の恋愛にかかわるのであるから、王女様も自分のエゴだけでなく、もう少し責任感と広い視野を持っていただきたい。若いカップルには問題へのもっと別の対応策があったのではないかと思われる。

 ということでこの作品にはあまり感心しなかったのだが、それでもこの作品を最後としてクレールがフランスを去り、英国を経てアメリカで映画製作を続けることになったという時代の動きに改めて目を向ける必要を感じる。過去の出来事とその中での人間の表現や行動について理解するのは容易なことではない。映画を歴史的な文脈で理解することのむずかしさを考えさせられた作品でもある。

 なお、戦前に日本で公開された映画なので、タイトルは「萬」と旧字体で表記されていた。
(4月19日にインターネットのトラブルが起きて、しばらく投稿ができませんでした。少しずつ遅れを取り戻していこうと考えておりますので、よろしく。)
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