ウィルキー・コリンズ『月長石』(29)

4月2日(水)晴れ後曇り

 前回(3月14日の第28回)からだいぶ間隔が空いてしまった。この物語も次第に大詰めにさしかかっていて、どこで紹介をやめるか、思案しているところである。

 1848年の6月にヨークシャーのヴェリンダー邸の令嬢レイチェルの部屋から忽然と姿を消したインド伝来の宝石<月長石>のゆくえは1年近くがたってもまだわからないままである。事件後、容疑をかけられたまま自殺した前科のある使用人のロザンナの残した手紙とナイトガウンは、宝石をレイチェルのもとに運んだ従兄で求婚者のフランクリンが深夜レイチェルの部屋に入った証拠となるペンキのあとがついたものであった。しかし宝石はフランクリンの手元にはなく、なぜこうした事態が起きたかは彼には分らないのである。一縷の望みを抱いてフランクリンは事件後彼を避け続けてきたレイチェルのもとを訪問するが、彼女の口から彼が<月長石>をもちだしたという驚くべき証言を聞く。

 事件の数日前に、フランクリンは債務の履行を迫る訪問客を迎えていた。そのことを知るレイチェルは、金に困ったフランクリンが宝石を盗んだのだとその動機を推測する。もし、フランクリンに金が必要ならば、彼を愛していたレイチェルは、その程度の金は貸したであろう。それどころか、宝石が持ち出された後でもフランクリンと連絡をとって金を貸し、宝石を返してもらう手筈を整えていたという。ところがフランクリンはレイチェルの予想を裏切って事件を警察沙汰にしたため、彼女はフランクリンに渡すつもりだった手紙を破り捨てる。彼女はフランクリンに真相を確認しようと近づいたが、フランクリンの表情から彼がしらを切りとおし続けようとしていることを読みとって二度と会わない決心を固めたという。彼女はフランクリンと、彼のいうことを全く信用していないと言い切る。そして、ダイヤモンドを盗んだだけでなく、質入れしたのは彼であると信じているという。

 フランクリンはレイチェルが自分を誤解しているのだといって、レイチェルのもとを去ろうとする。レイチェルはフランクリンとは二度と会わないが、彼を許すという。

 その日の夕刻、フランクリンの宿所をヴェリンダー家とフランクリンの両方の顧問弁護士であるブラッフが訪れる。ブラッフはフランクリンとレイチェルの会話の内容を知っており、過ぎたことにこれ以上こだわるべきではないといって、これから起きる事態に備えることが重要だと助言する。おそらくは金貸しのルーカーによって、銀行の貸金庫に預けられている<月長石>は今月(1849年6月)の末には貸金庫から引き出され、宝石を担保にして金を借りた人物(=ヴェリンダー邸から宝石を盗んだ人物?)に引き渡されるだろう。その時点を待つべきだという。

 月末までの2週間を何もしないで過ごすことを苦痛に感じているフランクリンは1年前の捜査にかかわり、今は引退しているカッフ部長刑事を訪問することを思いつく。しかし、ドーキングのカッフの家を訪ねてみると、今はバラ作りに専念しているカッフはそのためにアイルランドまで出かけて留守だという。フランクリンは彼に伝言を残しロンドンに戻ってくる。ロンドンで彼はヴェリンダー家の執事であるベタレッジの手紙を思い出し、事件についてあらためてその夜に邸内にいた人物から聞き取りをして事態を確かめ直そうと考える。ベタレッジの手紙にはなぜか、キャンディー医師の助手であるエズラ・ジェニングズがフランクリンに会いたがっていると書かれていた。

 事件の夜邸内にいた人物のうち、探検家のマースウェイトはまた探検の旅に出かけ、クラックは経済的に困窮して北フランスに住所を移した。すぐに会うことができそうなのは彼の従兄のゴドフリー・エーブルホワイトだけである。フランクリンが聞き知ったところではゴドフリーはレイチェルとの婚約を破棄した後、別の若い夫人と婚約したが、これも財産分与の件で相手の父親と深刻な対立が生じて不調に終わった。しかし、慈善運動で知り合いであった老婦人から5,000ポンドの遺産を受け取ることになり、医師の勧めもあって、大陸に保養のための旅行に出かけることになったという。フランクリンがゴドフリーを訪ねた1日前に、彼はブリュッセルに向けて旅立っていた。ロンドンで会うべき人物がいなくなってしまったので、フランクリンはヨークシャーに戻って残された人々の証言を集めようとする。

 登場人物のそれぞれが事件について限定された見聞と知識しか持たず、それをもとに推測を交えて思考を展開しているので話がもつれてしまっている。これまでの経緯から<月長石>をレイチェルの部屋から持ち出したのがフランクリンであることは間違いないように思われる。しかし、それを担保にして金貸しのルーカーから金を借りたのはゴドフリーらしい(少なくともそういう噂がある)。フランクリンには盗んだという記憶はないし、宝石は彼の手元にもない。あるいはレイチェルが信じているように、フランクリンこそがルーカーから金を借りたのだろうか。

 フランクリンはロザンナに対してもそうだったけれども、レイチェルに対しても相手の微妙な発言や態度にあまり注意を払わず、冷淡であったり、いい加減であったりする態度で臨んで自分の立場を悪くしているところがある。ベタレッジ、ブラッフ、ヴェリンダー家の使用人たちなど、彼に好意を寄せる人物は多く、だいたいにおいて好人物なのであろうが、脇が甘いというか、隙だらけというか、主人公としても、探偵役としても頼りないところがある。
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