カミ『機械探偵クリク・ロボット』

3月30日(日)雨、午後にいったんやんで晴れ間が見えたが、夜になってまた降り出し、雷が鳴った。

 カミ『機械探偵クリク・ロボット』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読み終える。2010年にハヤカワ・ミステリの1冊として刊行された作品に特別付録としてカミの書いた2編のコントをつけて文庫化されたものである。ハヤカワ・ミステリ版で既に読んでいるが、あらためて読みなおしたのは、それだけの魅力を感じているからである。

 カミ(1874-1958)はフランスを代表するユーモア小説家で、代表作の1つである『エッフェル塔の潜水夫』はむかし筑摩書房の世界ユーモア小説全集の1冊として翻訳・出版され、それ以前にラジオの連続ドラマとして放送されたこともある。翻訳者である高野優さんが「訳者あとがき」で述べているように「奇想天外というのは、まさにカミのためにある言葉だろう。その奇想天外ぶりにカミの作品がジャック・プレヴェールやシュルレアリストの詩人たちに大きな影響を与えたということは率直にうなずける」(338ページ)。

 古代ギリシアの科学者で発明家でもあったアルキメデスの直系の子孫であるジュール・アルキメデス博士は機械探偵クリク・ロボットを発明して警察に協力している。「事件が起こると、クリク・ロボットは計算機としての優れた能力を発揮して、正確無比な方程式を立て、代数学的に謎を解く。その冷徹な推理力の前には解決できない謎はなかった」(48ページ)のである。カミはアルキメデス博士とクリク・ロボットが活躍する作品を2作しか書かなかったが、この本はその2作を1冊にまとめたものである。

 「五つの館の謎」(1945)では「ある昼下がりのこと・・・庭に一発の銃声が鳴り響き・・・額にナイフの突き刺さった男が地面に倒れた」(10-11ページ)という事件が起きる。捜査にあたったグリモ―刑事は一号館の借主で、ナイフ(正確にはペーパーナイフ)の持主である作家のデ・ブルイヤール氏を疑う。被害者はデ・ブルイヤール氏の小説の中に登場する女性に恋してしまって、彼女を殺さないようにと作家を脅迫していたという。が、予審判事は慎重を期してアルキメデス博士とクリク・ロボットを呼び寄せる。クリク・ロボットは博士の指示のもと、その性能を生かしながら捜査を進める・・・。

 五つの館の住人のうち、二号館の借主はスプーンや宝石、五号館の住人は自慢のシケモクのコレクションのうちの(歴史的な名女優である)サラ・ベルナールのシケモク、四号館の住人は銀製の爪楊枝など、さまざまなものが紛失したと訴えている。これらの一連の盗難事件は新たに起きた殺人事件と関係があるのだろうか? そして事件の真相は?

 「パンテオンの誘拐事件」(1947)では、フランスの歴史に名を残す偉人たちを祀る霊廟として知られるパンテオンから、ヴォルテール、ルソー、ゾラ、ユゴーの遺骸が盗まれるという事件が起きる。その後、ボブ・メーカーンチ株式会社と名乗る一味から犯行声明が届けられ、5,000万フランの身代金が要求される。捜査の過程で怪しげな思想を信奉する学生と、新婚旅行中の葬儀屋の夫婦が登場し、話が混乱する。今回もアルキメデス博士とクリク・ロボットはロボットのさまざまな性能を生かしながら捜査を進めていく。

 今回は博士もロボットも危ない橋を渡ることになるが、どのような危険も実は折り込み済みというところにこの小説の凄さがある。ロボットは不死身だし、博士の智謀は悪漢たちの想定を超えたものである。

 <手がかりキャプチャー>、<推理バルブ>、<仮説コック>、<短絡推理発見センサー>、<推理推進プロペラ>、<論理タンク>、<誤解ストッパー>、<事実コンデンサー>、<情報混乱防止コイル>、<真相濾過フィルター>、<自動式指紋レコーダー>、<解読ピストン>などクリク・ロボットが備えている装置はまことに多彩で、カミが2編しかクリク・ロボットものを残さなかったのが残念である。カミはナチスの台頭とともに生まれ故郷のポーの近くに引っ込み、第二次世界大戦後にパリに戻ったというが、戦争中にどのようにクリク・ロボットの活躍する物語の発想を得て、構想を練っていたのか想像してみるのも一興である。

 翻訳者の高野さんによると、カミにはシャーロック・ホームズのパロディーで奇想天外な事件が続出する『ルーフォック・オルメスの冒険』が翻訳されている他に、まだ翻訳されていない名作も多いという。この後、ハヤカワ・ミステリから『三銃士の息子』が刊行される予定だというので、楽しみに待つことにしよう。
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