『家庭の事情』、『夜の蝶』

3月27日(木)雨が降ったりやんだり

 シネマヴェーラ渋谷で「山村聰の世界」の中から上映された『家庭の事情』(1962、大映)と『夜の蝶』(1957、大映)を見た。ともに吉村公三郎監督の作品であることも手伝ってなかなか興味深い上映であった。

 『家庭の事情』は以前に見た『四つの恋の物語』(1965、日活)とよく似た話だと思ったが、両作品ともに源氏鶏太の小説『家庭の事情』を原作とし、前者は新藤兼人、後者は三木克巳が脚本を書いている。母親を亡くして父親と四人姉妹で暮らしている家庭、父親が定年で退職し、退職金と預貯金を合わせた全財産を5人で等分することに決める。娘それぞれに金の使い道があり、ロマンスがあり、父親にも何かありそうである。

 この大映版では長女=若尾文子、次女=叶順子、三女=三条魔子、四女=渋沢詩子、父親が山村聰であるのに対し、日活版では長女=芦川いづみ、次女=十朱幸代、三女=吉永小百合、四女=和泉雅子、父親が笠智衆である。両作品を比べてみると、三女の描き方が全く違い、大映版では一人だけ働かずに家にいて母親代わりを務めているのに対し、日活版では働きに出ているだけでなく、幼馴染がデモに加わっているのをあなたは就職活動でそんなことをしている場合じゃないでしょうと連れだすなど大活躍をする。当時の吉永小百合の人気が反映された強調のされ方で、「四つの恋の物語」と銘打っているものの、日活版では和泉雅子だけロマンスと無縁である。つまり、出演者の個性に合わせて原作を適当に改変していることがわかる。大映版では父親に再婚話があり、その再婚相手になりそうな女性が経営する喫茶店を長女が買い取って自分の店にするという展開になるが、日活版では再婚話はない。なお再婚相手となるのが月丘夢路で(Movie Walkerで藤間紫となっているのは誤り)、映画製作再開直後の日活の中心的なスターであったのは皮肉である(だから日活版ではこの役どころがなくなっているのであろうか!?) 
 正月映画として製作され、出演者をそろえた作品であるが、最初と最後に満員電車の混雑を描写するなど吉村監督は社会の現実から目をそらさない姿勢を見せている。この点は川口松太郎の原作小説、田中澄江脚本の『夜の蝶』についても同じである。

 銀座一のクラブのマダム・マリと京都から乗り込んできたおきくという2人の女性の戦いを描く。実はマリは大阪出身で、かつて自分の夫をおきくに奪われた過去があった。マリを京マチコ、おきくを山本富士子が演じている。その一方で関西のデパート王白沢が東京進出を画策して銀座をはじめとして夜の街に出没しはじめている。物語は今ひとつ夜の世界を描きたりないし、登場人物の個性も十分に描き出されているとは言い難いのだが、映像には見るべきものがある。カラー映画だが、回想場面は白黒で出てきたり、映像構成の工夫が凝らされている。そうして撮影された当時の風俗であるが、まだ銀座にも埋め立てられていない堀が残り、都電が走っている。そういう昭和30年代の初めの東京の描写が興味深く、それに比べると京都は古い景観が残っているねぇと別の感心をしてしまう。登場人物が運転する自動車の多くが左ハンドルだったり、酔っぱらい運転がまだ厳しく取り締まられていないことなど、この時代の世相を映すものであろうか。

 おきくが経営する「おきく」は伝説的なバー「おそめ」がモデルだという。それとどういう関係にあったのか知らないが、河原町御池にあった「おそめ」というクラブが昼間は喫茶店をやっていたのに、好奇心から何人かで連れ立って出かけたことがあった。学生時代のこととて、いくらなんでも夜、顔を出すほど図々しくはなかったし、金もなかったのである。

 シネマヴェーラ渋谷はこれまでも見どころの多い特集上映を行ってきたが、今回の山村聰特集は過去の日本映画の多様な姿を知ることができる貴重な機会であった。今後の上映にさらに期待したい。
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四人姉妹の性格設定

『家庭の事情』と『四つの恋の物語』の両作品を通じて、長女が不倫関係を清算し(若尾文子の場合はその過程が生々しく描かれているが、芦川いづみの場合はぼんやりと暗示されているだけである)、次女が結婚しようと思っていた相手に裏切られ、四女が元気がよくて金儲けに走っているという設定は共通している。三女の性格の変更が目立つのである。おまけに日活版では三女の吉永小百合が歌う主題歌まで挿入されている。大映版では四人姉妹がそれぞれ相手を見つける終わり方をしているのに対して、日活版はそうでもないところが会社と出演者の個性の反映と考えられて面白いことをつけ加えておきたい。
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