森茂暁『太平記の群像 南北朝を駆け抜けた人々』(4)

3月26日(木)曇り、終日在宅したため詳しい天気は分からない。

 『太平記の群像』の第4章は「南朝を支えた人々」と題されている。有力な武士を結集した幕府に対して、南朝はさまざまな戦略と戦術をもって抵抗を続ける。「南北朝時代には、現在の常識ではとても考えられない出来事が多い。その1つは犠牲的な国家の一時的成立である。・・・あえていえば、それらは地域国家だろう」(204ページ)とこの章は書き起こされている。

 まず、「幻の北陸王朝」の見出しのもとに、後醍醐天皇が春宮の恒良親王に位を譲り、新田義貞らとともに北陸に派遣したという『太平記』の記述を紹介する。この記事はそれほど重視されてこなかったが、事実であることを裏付ける文書も存在する。「北陸王朝」の拠点とされた金崎城はほどなく陥落し、義貞も戦死したが、少なくとも10年間は北陸地方に独立の勢力が存在し、一種の地域国家を存続させ、一時は「白鹿」という年号までも使用していたことが確認できるという。

 さらに後醍醐天皇は皇子たちを各地に派遣して南朝の勢力の回復を企てる。しかし1339年には後醍醐天皇が崩ずる。『太平記』には「玉骨は縦(たと)ひ南山の苔に埋もるとも、魂魄は常に北闕の天を望まんと思ふ」(221ページ)とその遺命を記す。天皇の第七子の義良親王が即位する。後村上天皇である。約30年間、南朝天皇の地位にあったが、その間、南朝の本拠を転々と移さなければならないほど、追いまくられたがなおも抵抗を続けていた。

 南朝を支え、特に奥州の経営に意を用いたのが北畠親房・顕家父子である。『太平記』に登場する回数は顕家の方が多く、その戦死について「聖運天に叶はず、武徳時至りぬる其謂(そのいわれ)にや、股肱の重臣あへなく戦場の草の露と消給しかば、南都の侍臣・官軍も、聞て力をぞ失ける」(226ページ)と記す。「顕家のような南朝の重臣があえなく戦死したのは武徳が聖運に勝ったからだといっている。『太平記』はこういう形で幕府支配の正当性を随所で説いているのである」(226-7ページ)と著者は解説している。

 楠木正成死後の楠木氏を引き継いだのはその子の正行・正儀兄弟である。正行は若くして(もっとも正確な年齢は分からないらしい)華々しく戦死し、その後正儀が家督を引き継ぐ。『太平記』は彼を父祖同様に情にあついが、父や兄に比べて勇猛心が欠ける人物として描いている。とはいうものの彼は南朝を強力に支え、その一方で北朝・幕府との和平に熱心であった。一時は幕府に投降したこともあるが、結局は南朝に戻った。

 正平年間(1346-70)の一時期、詳しくは1351年から52年にかけて、南朝が京都を制圧して、北朝の天皇を廃止し、南北両朝を統一したことがあり、これを「正平の一統」という。これは弟直義と対立し、彼を滅ぼそうとする足利尊氏とその子義詮の側の都合によるものであった。それで尊氏が直義を滅ぼすと事態は急変し、南北朝の内乱が再開されることになる。この間、宗良親王が征夷大将軍に任命され、義貞亡き後の新田一族が従って、一時は鎌倉を制圧し関東地方で勢力をふるうが、やがて尊氏に敗れて新田一族も離散する。

 「衰亡の一途をたどる南朝の大勢とはうらはらに、意外な活躍をとげたのは九州統治の任務を負って下向していた懐良親王だった。すなわち征西将軍宮。筑前博多が大陸との交易の玄関口であるだけに、懐良の王国を支えた要素は国際的なものをはらんでいる」(245ページ)。懐良親王を支えたのは文吏では五条頼元、武将では菊池武光である。しかし、懐良親王の支配は幕府が派遣した今川了俊の巧みな戦術で切り崩されてしまった。

 懐良親王は明の皇帝から「日本国王」と認められた。南朝でもなく、北朝でもなく、懐良親王の九州の勢力を交渉の相手として選んだことが注目される。明が彼の政権に通交を要請した背景には「倭寇」問題があったことは確かであるが、いったんは拒否したものの、懐良は明の要請に応じて上表することになった。

 この間の経緯は幸田露伴の歴史小説『運命』に『明史』の記述に基づきながら紹介されている。明の太祖洪武帝の孫である建文帝と子である永楽帝の2人の戦いを描いたこの小説に、余談のように挿入されたこのエピソードであるが、実は物語の構想と関連をもっている。読みにくい作品ではあるが、露伴の格調の高い文章はそれを克服しても読みとおしたくなるような魅力を備えている。南北朝の対立は国内問題のように見えるが、実は国際性をもっていたことも見逃すべきではない。
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