森茂暁『太平記の群像 南北朝を駆け抜けた人々』(3)

3月24日(月)晴れ

 昨日はこの書物の第3章「足利尊氏」の初めの部分、尊氏と直義の兄弟の協力と二頭政治、その性格や考え方、支持基盤の違いと反目、敵対について見ていくだけで終わってしまった。この章の残りの部分は、尊氏の子の直冬と基氏について取り上げ、それから有力な家臣で彼の執事を務めた高師直とその一族、師直の滅亡後、執事を務めた仁木頼章とその一族、将軍の護持僧であった賢俊(既に第2章で建武新政下におけるその雌伏の様子が記されている)について取り上げている。

 尊氏の子どもたちのなかでは、彼の後継者となった義詮についてあまり取り上げられていないのは、この後の第5章で大きく取り上げられるからである。直冬は義詮よりも年長ではあったが、尊氏が一夜通いの女性とのあいだに儲けた子どもで、そのため父親から見捨てられ、男子のいなかった直義の養子となって世に出るが、軍事的な要請から尊氏の実子と認められて各地に派遣されるが、父親からその武功を認められることはなかった。「この直冬の地位は直義の幕府内での権勢に支えられていたから、観応の擾乱での直義の失脚や復権に伴い、直冬の立場も変動した」(151ページ)。直義の死後の直冬は南朝と手を結ぶに至り、一時期京都を制圧するが、その後は中国地方西部で活動を続けたに留まる。彼の残した文書から「外からの影響を受けやすい小心者で、ナイーブな性格の持ち主だったらしい」(155ページ)と著者は推測している。

 尊氏の三男である基氏は兄義詮と同様、平(北条・赤橋)登子の子である。若くして没したが、鎌倉に拠点を置いて関東地方の経営にあたる役割を与えられた。基氏は兄義詮を助けるようにという父尊氏の意向と、関東の独立を目指せという直義の意向との間で板挟みになったようであるが、父の言葉に背くようなことはしなかった。やがて尊氏が鎌倉から直義を追うと、基氏の本格的な関東支配がはじまる。

 尊氏の腹心であり、もともとは一家の家宰から将軍の執事となった高師直については、『太平記』では好色残忍な悪役とされていて、それが歴史上の吉良上野介が歌舞伎の『忠臣蔵』では高師直ということに脚色されるところまで尾を引いているのであるが、実際には将軍尊氏の執事として堅実な仕事ぶりを見せており、「その悪逆非道ぶりのみをことさら強調する『太平記』の叙述をそのまま事実と見るには躊躇せざるをえない」(171ページ)とする。なお師直が佐々木高貞(塩冶判官)の妻に横恋慕して、恋文を吉田兼好や薬師寺公義に代筆させたりして、気持ちを伝えようとするがうまくいかず、高貞を失脚させようと尊氏・直義に讒言するという有名なエピソードについては、高貞が出走・自害したという事件は事実であるが、その他の部分については確証がないという。兼好の代筆についてもありえない話ではないという研究もあるようである。

 師直の滅亡後、尊氏の執事となった仁木頼章は、師直と違って足利一門の出身であり、幕府の活動が軌道にのってからの執事であるために、その仕事の内容もパターン化しているという。頼章は将軍の執事としての職務を基本にしながらも、政務についてもかかわっており、その後の管領制の萌芽のような仕事ぶりが見られるという。

 将軍尊氏の護持僧として活躍した三宝院賢俊は日野家の出身である。第1章で既に触れられたように、日野家は学問の家柄で優れた吏僚を輩出してきたが、(例外はあるが)持明院統寄りであったために建武新政下では逼塞を余儀なくされた。「動乱は日野家を再び歴史の舞台に押し上げることになった。南北朝時代は日野家にとって飛躍のときだった。日野家一門のものたちは、官界・宗教界に大きく羽ばたき、各方面に太くて深い根を張った」(191ページ)。賢俊は日野家の繁栄の基礎を築いた僧侶であった。賢俊は尊氏の護持僧として活躍しただけでなく、北朝の天皇の護持僧でもあり、東寺・醍醐寺のような宗教権門の長でもあり、また荘園領主でもあった。彼はまた『太平記』の編纂にもかかわっていると考えられるが、『太平記』本文中に登場するのは2回だけである。賢俊は真言宗の僧であり、『太平記』が天台宗の強い影響のもとに成立したことがこの理由ではないかと論じられている。

 第3章を通じて、足利氏とその一門が一方では尊氏と直義・直冬に見られるように骨肉の戦いを演じながらも、一門でまとまって幕府の力をもりたてようとする動き、さらにそれを支える(利用して生き延びようとする)武士や公家、僧侶たちの動きが概観されている。『平家物語』に比べて『太平記』の登場人物は全体として転換期を生きるたくましさと強い個性をもっている人物が多く、それがこの物語の魅力ではないかと思う。そのような個性的な人物たちの柱になったのが尊氏であった。
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